ヨーカドーが「第2のライフ」には多分なれない訳 「消費者を見ない姿勢」は変化の妨げになる
東洋経済オンライン / 2024年9月5日 8時0分
しかし、ヨーカドーの場合、そこから消費者のを向く改革は遅れに遅れ、結局、デッドラインに近いところまで来てしまった。アパレル業界と同じく、その改革が遅れたのは、明らかに「内側の論理」を優先させていたことがある。ノンフィクションライターの窪田順生は、ITmediaビジネスオンラインの記事「『イトーヨーカドー』はなぜ大量閉店に追い込まれたのか “撤退できぬ病”の可能性」の中で、ヨーカドーの撤退が遅れたのを「撤退できぬ病」と名付け、以下の記事を引用する。
「改革案に『撤退』の文字を盛り込むかどうかは最後まで迷いもあった。内部からは、『プライドや雇用もあって、衣料品はやめられない』との声も聞かれた」(読売新聞 2023年3月10日)
まさに「プライド」は、「内側の論理」でしかない。プライドよりも前にヨーカドーには、消費者のために店を展開する、という責務があるはずだ。
現場と本部の乖離を生み出す「内側の論理」
こうした「内側の論理による改革」は、また、別の問題も引き起こす。現場の不信感だ。それがまた、ヨーカドーをライフから遠ざける。
ライフについて、ライフコーポレーションの岩崎高治社長は、はじめて店舗を視察した際、傘立ての場所さえも現場で決められないということに驚き、「もっと現場に権限を」ということで、ライフをかなり「権限委譲」された店舗に変えていったことを度々語っている。
先ほど、ライフについて、店舗ごとに販売戦略が異なる話をしたが、それは現場の店長が自主的にそうしている場合も多い。消費者と最も近い位置にいるのは現場で働く人々。彼らの裁量が店舗運営に生かされることが望ましいだろう。
このように、本部と現場での足並みを揃えるためには、ある程度双方に対する信頼関係がなくてはならない。
靴やカバンの修理店として知られるミスターミニットの元社長である迫俊亮が、同社の改革をテーマにした『やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、本部の指示に対して、現場が全く従わなかったエピソードが書かれている。
現場の人間は、本部の人間から大切にされていると思っておらず、その指示を適当に受け流していたのだ。本部と現場が乖離していたのである(会議室で考えた新たな施策が、現場の手を止めて接客の妨げになることが多かった……という歴史も、背景にはあった)。
迫は「現場は、経営の最高の師匠」と書き、常に現場を見て回り、そこで起こっていることや、行われている工夫を経営にフィードバックさせてきた。それが現場と本部の一体感を生み出し、ミスターミニットの業績回復を支えた。
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