人はなぜ身分と学歴をまとう者にだまされるのか フランス超エリート校の廃止が持つエリートの意味
東洋経済オンライン / 2024年9月8日 9時0分
日本とよく似ているのがフランスである。フランスは、日本以上の中央集権とエリート主義の国家だ。
日産自動車を迷走に導いたカルロス・ゴーンは、こうしたエリートの1人だった。もちろん、日本と違ってフランスのエリートは文部省管轄の大学ではなく、省庁管轄のグラン・ゼコールの出身である。大学3年から入学するエリート校は、まさに狭き門である。
その中でも有名なものが、ENA(L’Ecole Nationale d’Administration 、国立行政学院)、エコール・ノルマル(L’Ecole Normale Supérieure、国立高等師範学校)、ポリテクニーク(L’Ecole Polytechnique、理工科学校)などである。
ナポレオンは近代社会の申し子で、身分や天命を信じず、科学と理性を重んじた。その結果、こうしたグラン・ゼコールというエリート学校を創設するに至る。これらの学校を卒業したものは、高く評価され、やがて学歴エリートとして社会のトップに上り詰めていく。
フランスは、共和政体をとったことで、全国津々浦々をパリと同じように均一化していく。地方の若者も、グラン・ゼコールを出さえすれば、トップエリートの座につくことができるようになる。こうして近代の学歴エリートによる政治の支配が生まれる。
廃止されたグラン・ゼコール
その中でもとりわけ影響力が大きかったエリート中のエリートこそ、通称ENAと呼ばれる国立行政学院である。この学校は、ナポレン時代ではなく、1945年の戦後に設立された新しい機関だ。
わずか100人足らずしか入学を許可されないエリート中のエリート校である。将来の大統領候補である政治エリートはここで培養され、若くして地方自治体や企業などの幹部となり、フランスを支配していく。
フランスの県知事は、選挙制によって選ばれる市長とは違い任命制である。大統領によって任命されたエリートが県政をつかさどる。こうして中央エリートが全県を統制するシステムが成立する。
しかし、マクロン政権のもと、このエリート養成機関であるENAの廃止問題が議論されることになった。そしてとうとう2021年、ENAは廃止された。しかし、学歴貴族がなくなったわけではない。
その廃止をめぐって行われた議論の中心は、ENAへの入学が特定の階層に独占されているということであった。
「学歴貴族」は、ピエール・ブルデューの『遺産相続者たち:学生と文化』(石井洋二郎訳、藤原書店、1997年)の文化貴族たちを意味し、家柄エリートしか知りえない文化資本(音楽や文学などの趣味)がないと入学できないというのである。
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