人はなぜ身分と学歴をまとう者にだまされるのか フランス超エリート校の廃止が持つエリートの意味
東洋経済オンライン / 2024年9月8日 9時0分
だから学歴エリートは素材とやらは別として、専門的業績も教養もなくともエリートたりえるのである。こうして難関試験に受かっただけで世間にちやほやされる学歴エリートは、『山月記』の李徴のように、傲慢不遜な人間となることが可能となるのだ。
そうした輩が若いうちからちやほやされれば、専門的業績や教養、そして実績のある、学歴のない者を小ばかにしてしまうのも、無理のないことかもしれない。そしてそのまま十分な知識もなく、上座に座り、政治や経済を指導し、支配することになりかねないのだ。
エリートによる横暴を甘受する国民
しかるに、今日本では、世襲議員という名の特権身分エリートと、こうした学歴(最近では日本以上に権威のあるアメリカのブランド大学を出た)エリートが日本の針路をつかさどっている。植民地政権よろしく、それにかしずかねばならないわが国民は、まことに哀れだというしかない。
しかしながら、国民は、何度もこうしたエリートの横暴で被害を受けながらも、輝かしい身分とその学歴に魅了されて、何度でもだまされ続けることになるのである。
これはもちろん今に始まったことではない。確かな能力だと判断するものがない以上、そうではないと理解しつつも、人はまたその身分と学歴の魔力に翻弄され、容易にだまされてしまうのである。
このことを見事に表現した、1853年のカール・マルクスの言葉を最後に引用しておこう。
「ルッジェーロは、何度でもアルチーナの偽りの色香に惑わされる。その色香のかげには、そのじつ、「歯もなく、目もなく、味覚もなく、なにもない」一人の老いた魔女が隠れているものだということは、彼にもよくわかっているのだが。この武者修行の騎士は、これがいままで自分に恋慕した人間をみなロバや、そのほかの動物に変えてしまった女だということを知りながら、またしても彼女に恋慕するのを抑えることができない。イギリスの大衆こそもう一人のルッジェーロであり、パーマーストンはもう一人のアルチーナなのである」(『ザ・ピープルズ・ぺーパー』1853年10月22日、『マルクス=エンゲルス全集』大月書店、341ページ)。
だまされないためには、大衆にも、学歴という魔力から抜け出すための経験知と地頭が必要なのだ。
(ちなみにルッジェーロとアルチーナの物語はアリオストの『狂えるオルランド』〈脇功訳、名古屋大学出版会、2022年〉の登場人物である)
的場 昭弘:神奈川大学 名誉教授
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
日本人が驚くフランスの「超学歴社会」。新卒採用がほぼなく、高校生の段階で「収入格差」が決まる現実
オールアバウト / 2025年1月11日 21時25分
-
本当は「コロンビア大院卒の超高学歴」なのに…小泉進次郎氏が「これだから低学歴は」とバカにされる根本原因【2024下半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2025年1月3日 7時15分
-
早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを拒否したのか?...「アンチ東大」の思想と歴史
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月2日 8時30分
-
大卒よりも高卒? 日本とは全く違う、塾も受験もないフィンランド人の「学歴」の考え方
オールアバウト / 2024年12月21日 20時55分
-
「国家公務員試験トップ」よりも「予備校模試1位」の方が尊敬される…元経産相官僚が目撃した霞が関の謎文化
プレジデントオンライン / 2024年12月20日 9時15分
ランキング
-
1「国はずるい」宮城の村井知事が憤り 旧優生保護法補償法で被害者対応を自治体に丸投げ
産経ニュース / 2025年1月15日 14時42分
-
2【速報】大学生暴行死 主犯格とされる18歳男ら2人の実名公表 少年含む4人を起訴 札幌地検
STVニュース北海道 / 2025年1月15日 14時39分
-
3小学校花壇にシカの頭部か、岐阜 埋められた可能性、腐敗なし
共同通信 / 2025年1月15日 12時4分
-
4大統領拘束に「重大な関心」 日本政府、韓国と緊密に意思疎通
共同通信 / 2025年1月15日 12時7分
-
5「都議会自民党」会計担当を週内にも立件へ、パーティー収入3000万円不記載か…東京地検特捜部
読売新聞 / 2025年1月15日 5時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください