国立劇場、再建決まらぬまま休場続く迷走の裏側 休眠中の施設をHISが活用する摩訶不思議
東洋経済オンライン / 2024年9月10日 9時30分
ちなみに、現施設の大規模改修が最適とする建築家の意見もある(2024年6月14日付朝日新聞記事における建築家・北山恒氏の見解)。
実は、当初の計画では現施設の改修が表明されていた。2016年11月にはじめて「国立劇場等大規模改修基本計画」が発表された。これは大改修を前提とする案だったが、2019年10月に設置された「国立劇場再整備に関するプロジェクトチーム」によって、民間資金を活用するPFI方式を前提とすることが公表された。
要するに、訪日客の文化観光拠点にするため、ホテルを建設した劇場にするとの考えが基本にある。これにより、現施設の改修という方針から、取り壊して建て替えるという方針に変わったのである。
この背景には、2017年に文化芸術基本法が成立し、文化や観光産業の連携方針が打ち出されたことにある。これにより、計画では本来の伝統文化継承目的に文化観光拠点の機能も加えた建て替え方式が示されたといえる。民間事業者の資金やノウハウを活かしたPFI方式を採用し、ホテルやレストラン、カフェなど民間施設も建設し、振興会が事業者から賃料を得るという案だ。
前述した昨年11月の記事では、現地で建て替えるのではなく、移転の検討をしてはどうかと提案した。半蔵門の当地は、住宅や事務所の立地としては申し分ないが、商業地としては閑散としている。それゆえにPFI方式の入札が2度も不調に終わったという面もある。
築地市場跡地に国立劇場を建設できれば、日比谷の帝国劇場・東京宝塚劇場などの東宝系劇場、東銀座の歌舞伎座や新橋演舞場などの松竹系劇場と、築地の国立劇場が線でつながり、「東京版ブロードウェイ」構想ができあがるのではという意見を紹介した。他の場所に移転となれば、そこでの工事中は現・国立劇場の建物で興行を続け、新たな国立劇場完成と同時にスムーズに移転ができるからだ。
しかしながら、8月21日の方針では現地での建て替えという考えが踏襲されている。
歌舞伎役者の中村時蔵氏は、この件に関して、本年2月16日の日本記者クラブでの、伝統芸能実演家等が長期休場の悪影響を訴えた会見で、興味深い発言をしている。
劇場の担当者に対して、「国立劇場の土地を売り払って、どこか他に行ったらどうか」と言ったら、「やはりここは国立劇場発祥の地なのでどうしても譲りたくない、動きたくない」との返答だったという。
そこで、時蔵氏は仮設劇場の設置を国立劇場側に要望したところ、はじめは、代替えは考えているとのことだったが、後で無理と言われたという。
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