国立劇場、再建決まらぬまま休場続く迷走の裏側 休眠中の施設をHISが運営する摩訶不思議
東洋経済オンライン / 2024年9月10日 9時30分
時蔵氏は、「お金があればPFI方式でやることもない。財政が逼迫しているから、財務省も出し渋っているということもあると思います」と結局はお金の問題であるとの認識を示した。
方針決定プロセスへの疑問
筆者が気になるのは、本件にかかわる政府の方針決定のプロセスだ。
振興会において、PFI手法による事業者選定手続きを進めたが、2回の入札では事業者の選定に至らなかった。その後、2024年3月には振興会に「国立劇場再整備に関する有識者検討会」が、自民党・文化立国調査会には国立劇場建設プロジェクトチーム(PT)が設置され、それぞれから今後の国立劇場再整備に向けた提言がとりまとめられた。
また、こうした動きを受けて、本年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」(いわゆる骨太の方針)にようやく、「我が国の文化芸術の顔となる国立劇場の再整備を国が責任を持って早急に行う」ことが明記された。
このような状況を踏まえ、「国立劇場再整備に関するプロジェクトチーム」から8月21日に「『国立劇場の再整備に係る整備計画』の改定に向けた方向性」が発表された。すなわち、国立劇場の建て替えをめぐる実際の方針形成はこのプロジェクトチームが行っていることになる。
筆者は重要な方針決定を行う組織が単なる「プロジェクトチーム」(PT)であることに驚いている。
立法府ではなく、行政が立法案作成(政府提出法案、いわゆる閣法)や重要な政策決定や変更を行う際には、通常、恣意的な決定が行われるのを防ぎ、民意が反映されるように審議会等の有識者会議が組織され、そこに大臣が諮問し、そこでの答申を受けて大臣が決定するシステムがとられる。
しかし、本件では振興会に有識者検討会はあるものの、その上位の政府の方針決定組織がPTという軽い組織になっている。しかも、その構成員は実務レベルの官僚等がほとんどだ。
このPTは「令和元年10月7日文部科学副大臣決定(令和元年12月10日一部改正)」によるもので、「文部科学副大臣(文化担当)の主宰による、文部科学省、文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会その他関係者間による連絡調整を行い、情報共有を図る必要がある」ため、設置するとされた。すなわち、実務者レベルでの連絡調整や情報共有が本来の目的なのだ。
そのPTが今後の国立劇場をどうするかという日本の伝統文化継承にかかわる重要な事項を事実上決定していることは、いかに国、政府、政治家が伝統芸能に理解、関心がないかを示すものである。また、発表方針表明も、主宰する副大臣名でなく、PT名であることは理解できない。
単なる東京の一劇場存続の問題ではない
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