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父を難病で失った息子が始めた「ありえない商売」 誰も思いつかなかった「幸せな人生」の見つけ方

東洋経済オンライン / 2024年9月11日 9時0分

「若い私のもっともつらい時期、父親がそばにいてほしいのにそれがかなわない、そんな私の将来を考えてくれたんでしょうね」

手紙はこれだけではなかった。ライアンはその後、父から数多くの手紙を受け取ることになる。その中には「死ぬのが怖いわけではない」という言葉があった。告知を受けてすぐに現実を受け入れたのだという。

そう、死ぬのはつらくない。つらいのはこれから先、妻や子どもたちのそばにいてやれないことだ。彼らの悲しみを少しでも和らげてやりたいという思いから、アルネは手紙を書いた。子どもたちが将来体験するであろう、人生の貴重な瞬間宛てに。

アルネが遺した手紙は妻や他の子どもたち、他の人々に宛てたものも含めると、数十通に上る。

人がこの世を去っても、残された人々はつながりを感じ続けることができる。こうした手紙の存在は、それを強く思い出させてくれる。未来の自分、そしてその先に思いをはせたことで、アルネは自分のみならず、他の人々の未来の姿を形づくることができた。

この手紙をきっかけに、ライアンは会社を立ち上げることになる。20年前に警官の職に就き、サンディエゴ警察に配属されたライアンは、特に暴力事件が多発する地域の巡回を担当することになった。

配属1年目には銃撃事件に何度も遭遇した。父親には数年の「猶予」があり、残された日々について計画を練ることもできただろうが、自分は仕事柄、いつ死んでもおかしくないと思うようになる。

そこでライアンは父のように手紙を書くことにした。しかしそれは思いのほか難しかった。恐ろしく時間がかかってしまうのだ。

患者が希望を手紙で伝えるプロジェクト

それなら「ビデオレター」はどうだろう。しかし、ウェブカメラで撮影する「ビデオレター」は、予想以上の難しさだった。娘の結婚式に花を添えようと録画を始めたが、ひたすらすすり泣くだけの映像になってしまい、意味のわからないメッセージになってしまった。

こうした経験を活かし、ライアンが設立したのが「エバープレゼント」だ。健康な人や病気の人など、誰もが映像を制作できる場を提供する。愛する人の死後もその映像を共有してもらうのが目的だ。

ライアンにとってもう1つの利点は、この先の人生を考えるにあたり、ビデオの存在が心の支えになっていることだ。たとえ人生の終焉を迎えることになっても、「家族にはすべて言い残した」という安心感がある。

カリフォルニア州の病院「スタンフォード・ヘルスケア」の医師も、手紙を書くプロジェクトに取り組んでいる。終末期について、患者により深く考えてもらうため、緩和ケアの医師が手紙の形式を用いた事前指示書を導入している。患者は今の自分にとって何が一番大切か、人生の終わりに何を求めるか、家族に覚えておいてもらいたいことを記す。

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