贖罪で移民を受け入れたドイツが直面する苦境 中道を標榜するが、過激なポピュリズムに向かう人も
東洋経済オンライン / 2024年9月11日 16時0分
ナチスによる過ちの風化を今でも防ぎ続ける、強い意志を持つドイツ。そんなドイツの意識も、時代により徐々に変化が見られているようです。元外交官として、そして個人として世界97カ国を見てきた山中俊之氏が、地政学に「政党」という切り口をプラスしてドイツという国を分析します。
※本稿は山中俊之著『教養としての世界の政党』から一部抜粋・再構成したものです。
ナチスへの反省から生まれた政党制
各州に自治権を持たせる連邦制を採用している国は、アメリカとカナダのほかに、ロシア、オーストラリア、スイス、インドなどがあります。ドイツも連邦制ですが、領邦国家の伝統があるドイツでは、州政府の権限が大きく強いのが特徴です。
【図を見る】ドイツの政治は保守とリベラルの勢力が複雑に絡み合っている
私の見たところその理由は、ドイツにとってナチスへの反省は非常に大きく、国全体的に影響を及ぼしているためでしょう。権力を一つに集約して巨大化させてはいけない――中央集権的な権力を徹頭徹尾、避けているのです。
ドイツでは法律により、ナチスを連想させるような言動は厳しく規制しています。ナチス式敬礼が罪に問われるニュースを、見たことがある人もいると思います。
さらにドイツ連邦共和国基本法、すなわち実質的な憲法の21条には、「自由と民主主義に反する、或いは国の存亡を脅かす政党は違憲」という旨が制定されています。
日本国憲法には「政党」というものが明示的に定義されていませんが、ドイツではちゃんと規定されているのです。政治活動の自由を制限することは、人権の見地からいえばそぐわないものです。
しかし、だからと言って「表現の自由だ、言論の自由だ」となんでもかんでも許していたら、再び国が暴走機関車に繋がれてしまうかもしれない……。そんな深い懸念が表れています。
そんなドイツにもヨーロッパ全体の傾向が表れています。右派ポピュリズム政党が登場し、支持者が増えているのは、移民への反発からでしょう。また「ネオナチ」と呼ばれる若者たちも戦後まもなくから現在まで、消えることなく存在しています。
私の著作権エージェントの元担当者は、10年ほど前、ドイツのメクレンブルク=フォアポンメルン州に住んでいました。移民や外国人が少ないとされる地域だそうですが、それでもネオナチと呼ばれる集団を日常的に見かけていたと言いますから、ベルリンなどの都心ではなおのことでしょう。
「反ナチス」という国の決意や危機感がありつつも、消えない悪の残滓。
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