ホスピス医が語る「人生最後の日」に人が望むもの 「この世を去る」前に気持ちの変化が訪れる
東洋経済オンライン / 2024年9月15日 16時0分
「人に迷惑をかけるくらいなら、早く死んでしまいたい」
人生の最終段階の医療に携わって30年。私はこの言葉を、数えきれないほど耳にしてきました。
「人に迷惑をかけたくない」という思いに苦しむのは、元気なときに、自分の人生をしっかり自分でコントロールしてきた人が多いようです。
「自分は、こうでなければならない」という思いが強い人、「人に頼らない」を信念としてきた人、「努力すれば報われる」という信念を持ち、厳しい競争社会を闘い抜いてきた人……。そのような人ほど、人生の最終段階で、それまでの価値観がまったく通用しなくなり、アイデンティティを失ってしまうのです。
そして、「死にたい」と思うようになったり、自分をコントロールできないいらだちを、家族や医療スタッフ、介護スタッフにぶつけたりするようになります。
また、幼い子どもがいる親御さんや、会社を経営していた社長さん、財産がありすぎるお金持ちなども、苦しむ方が多いようです。この世に残していく子どもや会社、お金のことが気がかりで、「生きていたい」という思いが強いためです。
しかし、こうした患者さんたちも、苦しみ抜いた果てに、少しずつ自分が抱えていたもの、それまで頑なに守っていた信念などを手放し、他人にゆだねるようになります。
「自分で何でもできて当たり前」という思いや、「役に立たない自分は価値がない」という思いから解き放たれ、他人の世話になることを受け入れたり、子どもの行く末を誰かに託したり、会社やお金を後継者に譲ったりするようになるのです。
手放し、ゆだねる覚悟を決めた患者さんからは、怒りや悲しみ、焦りなどが少しずつ消えていきます。そのためには、ゆだねることのできる相手が必要ですが、それは必ずしも「人」でなくてもいいと私は思います。
これまで私が看取りに関わった患者さんの中には、自然が大好きで「自然が常に自分を守ってくれている」と言っていた方や、信仰心が篤く、「神様が守ってくださっているから大丈夫。何も怖くありません」と言っていた方もいらっしゃいました。
いずれにせよ、ゆだねる相手をしっかりと信じることができれば、たとえ明日が人生最後の日だとしても、人は穏やかに、幸せに過ごすことができるのではないかと、私は思います。
死は耐えがたい「絶望」と「希望」を一緒に連れてくる
命に関わる病気であることがわかったとき、あるいは余命を宣告されたとき、一番辛いのは、もちろん本人です。
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