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ホスピス医が語る「人生最後の日」に人が望むもの 「この世を去る」前に気持ちの変化が訪れる

東洋経済オンライン / 2024年9月15日 16時0分

しかし、そばで見守るしかない家族の心労も相当なものです。特に余命宣告を受けたのが子どもだった場合、ご両親は大きなショックを受けます。以前、がんであることがわかり、余命半年と宣告された18歳の男性の看取りに関わったことがあります。

彼は自分自身で病気や治療方法について調べ、抗がん剤などによる治療を受けないと決めました。そうした治療に時間を費やすよりも、残りの時間を自分らしく自由に過ごしたいと考えたのです。しかしご両親は、わずかでも可能性があるなら治療を受けさせ、息子に1日でも長く生きてほしいと望みました。

ご両親の意見と、「自分の選択を尊重し、見守っていてほしい」という患者さんの意見は真っ向から対立し、親子の間には一時、険悪な雰囲気が漂いました。どちらの言い分もわかるため、私もずいぶん辛い気持ちになったものです。私は定期的に患者さんのもとに通い、患者さんからもご両親からも、たくさんの思いと言葉を聴きました。

やがて、ご両親は葛藤の末に、患者さんの意思を全面的に受け入れる覚悟を決めました。

「少しでも長く生きてほしい」という自分たちの願いをあきらめ、息子の最後の望みを聞き入れる。それは、非常に辛い決断です。けれど、その決断によって、親子は良好な関係を取り戻し、ご両親が患者さんと腹を割って話す機会も増えました。

患者さんがこの世を去るまでの、わずかな時間。それは、患者さんにとっても、残されるご家族にとっても、非常に貴重で大切なものであり、できればお互いにとって穏やかで幸せなものであってほしい、と私は思います。

しかし、この親子にとっては、お互いが本当の意味で理解し合い、支え合うため、気持ちをぶつけ合うことも必要だったのかもしれません。

誰かに看取られるなら、それ以上の幸せはない

死を前にした患者さんの多くが、自宅に帰ることを望みます。最新設備を誇る病院やホスピスのきれいな病室にいるよりも、古くてシミだらけの我が家の天井を見ていたほうが、心が安らぐというのです。

ホスピスから帰られたばかりの、ある男性の患者さんのお宅を訪ねたときのことです。家自体、決して新しくはなく、しかもすぐそばを私鉄の線路が走っていたため、部屋には数分おきに電車の轟音が鳴り響きます。

それでも患者さんは、家に帰ってきてからのほうが気持ちが落ち着くし、体調もいい気がすると、とても満足した様子でした。また、ご本人だけではなく、ご家族も、患者さんの表情がホスピスにいたときよりも穏やかになっているのを見て、「自宅に帰る」という決断が間違っていなかったと確信したそうです。

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