株式市場にはびこる「配当」の思い込みと"横並び" アメリカの状況との比較から見えてくるもの
東洋経済オンライン / 2024年9月17日 15時0分
1 「多くの日本企業には成長領域が少ないため、内部留保する必要性に乏しく、そうであるのなら積極的に配当すべきだ」と投資家が考えているから。
2 「社長などの企業経営者の多くは頼りないから、内部留保したところで無駄になるだけだ」と投資家が考えているから。
3 配当への信仰。企業も投資家も、「普通の企業に無配はありえない」「無配はダメ企業」と考えている。少しでもいいから配当することが当然との風潮から。
少し飛躍すると、日本企業は横並びで配当している。企業経営者には、当期純利益の30%を配当するのが正しいとの思い込みが強いようだ。
日本における配当性向「30%」の信仰
日本企業が「無配はダメ、当期純利益の30%を配当するのが正しい」と思い込んでいるとすれば、それは重大な間違いだ。内部留保と企業成長との関係を完全に見逃している。
そこで配当について、日本とアメリカの状況を具体的に示しておきたい。
「当期純利益に対する配当の割合」を「配当性向」と呼ぶ。アマゾンやグーグルの配当性向は0%を続けてきた。
他方、利益が大きく落ち込んだが、これは一時的だと企業が考えれば、従来と同じ金額の配当を続け、その結果、配当性向が100%を超えることも当然にある。
この配当性向の分布を日本市場とアメリカ市場とで調べてみた(下図)。形状が異なることは一目瞭然だろう。
違いの1つは、アメリカの場合、無配もしくはそれに近い企業が多いことである。アマゾンやグーグルの例で示したように、「配当をするよりも成長を」との意識が強い。
もう1つの違いとして、日本の場合、配当性向30%付近に多くの企業が集まっている。無配でない企業だけを取り出しても、日本は配当性向30%に集中している。
「隣の企業が30%の配当性向を目標としているから、わが社も30%にすればいい」との横並びの発想である。
これに対してアメリカの場合、より高い配当性向の企業が多い。「成長のための投資対象に乏しいのなら配当を」との意識の強い企業が多いからだろう。企業経営のことをより真剣に考えているともいえる。
トータルリターンが大きければ満足
株式を保有することは、企業のオーナーになることに等しい。企業が成長してくれさえすれば、とりあえずのところ配当を支払ってもらう必要がない。
株主として、たとえば家を買うための資金が欲しくなれば、株式を売却して現金化すればいい。
株式を購入して以降、配当として支払ってもらった金額(インカムゲイン)の累計と、株式売却代金と当初の購入代金との差額(キャピタルゲイン)とを足した金額、すなわちインカムゲインとキャピタルゲインの合計額であるトータルリターンが十分に大きければ満足できる。
川北 英隆:京都大学名誉教授、京都大学成長戦略本部・証券投資研究教育部門 客員教授
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