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国の経済発展をもたらすのは「政治制度」ではない 「ノーベル経済学賞」のアセモグル教授らに反論

東洋経済オンライン / 2024年10月19日 8時30分

つまり、株式会社の利益最大化とは矛盾し、経済合理的な行動ではないのである。それにもかかわらず、この駅員はやりたいと思うし、この会社も、それはぜひやれと言う。これこそが社会資本があるということだ。

そして、これは、株式会社の形式的な経済合理性を徹底的に追求しすぎない、多少の精神的余裕が駅員にも経営者にも、そして組織にもある、ということから生まれていると私は思う。

こういう株式会社のほうがいいんだ、ということが、社会構成員全員(もちろん株主も含んだ)の価値観として共有されていることにより、生み出されているのだ。この価値観が社会で共有されることが重要なのだ。それは、感性あるいは最近の日本語で言えば、人間力から来ていると思う。

最後に、⑧の車いすで生じた時間的なロスなどを組織でカバーする力、これがいちばん偉大なことだ。さまざまな要素の集合体、蓄積というよりも堆積の結果だ。社会の歴史そのものと言ってもいい。

たとえば、日本社会の時間厳守という慣習(?)も大きく影響している。誰もが「時間どおり」が重要だと思っているため、自然にこれを実現するために、無意識に社会構成員全体が協力する。無意識に全員が協力するというのも社会の歴史の堆積の結果だ。これこそ社会の力であり、この類の金にならない力に日本はあふれている。

これら、私が述べた④から⑧は、政治制度に左右されない。政治制度成立以前に存在する社会の力であり、トップダウン的な明治時代も、民主主義が進んだ戦後以降も、日本では同じく成立している。

しかし、民主主義は維持されてはいるにもかかわらず、昨今、社会への無関心、他人への無関心、袖振り合うも他生の縁、という言葉とは正反対の行動をとることが多数派の価値観になりつつある社会、これが急速に進み、日本の社会資本は減少しつつある。したがって、政治制度よりも、その奥にある社会資本、もっと根本から社会に堆積している大事な土壌の維持、豊饒化が重要だと私は考える。

社会資本を蓄積する政策こそ、経済発展をもたらす

長くなってきたので、飛躍して結論を述べるが、そのための政策、社会資本を蓄積するような政策こそが、社会を立て直し、経済発展をもたらす、と考える。それが21世紀に特に急激に必要となってきたのは、金融資本主義が発達しすぎて、金融資本の膨張が社会資本をクラウドアウトし(押しのけて)、従来、社会の基盤となっていた社会資本の減耗、棄損、破壊を放置してきたからである。

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