国の経済発展をもたらすのは「政治制度」ではない 「ノーベル経済学賞」のアセモグル教授らに反論
東洋経済オンライン / 2024年10月19日 8時30分
では、前述の①から⑧の社会資本から、上記の宇沢氏の3類型を除くと何が残るか? 社会学でいうところのsocial capital(社会関係性資本)は、①から⑧の中に含まれているが、それ以上に微妙なものがここには含まれており、それこそが重要だと考える。
もう一度上記の車いすの例をみてみよう。まず、①の車いすの入手は経済力と解釈しよう。②の介助は、親族関係あるいは経済力あるいはコミュニティの善意の助け合い、あるいは社会主義的な政府サービス(福祉とか社会民主主義的と言ってもいいが)ということで、選択肢があり、代替が可能である。だから、社会主義か資本主義か、前近代的家族制度か現代か、という問題ではない。どんな制度をとるにしても、社会資本の提供は可能なのである。制度ではなく、その奥にある何かが必要なのだ。
また、③の周囲の自発的な手伝い、は社会の力であり、これが社会学でいうsocial capitalのど真ん中にあるものだろう。
私がここで強調したいのは④の「ニーズに気づき、システマチックに解決しようとすること」だ。これこそが社会の力である。そして、どこから来るかよくわからない。どういう社会で④が豊かに生み出され、生まれない社会ではどこに生まれない理由があるのか。
さらにクライマックスは、⑤の組織的対応、⑥の現場の具体的な仕組み作り、⑦の担当者レベルの献身を含む対応だ。日本の場合は、一体的に地下鉄の運営会社によって実現されている。これができる民間企業(しかもまもなく上場する)とは、なんと素晴らしいことか。
しかし、これは株式会社の利益最大化となぜ矛盾しないのか。説明の仕方はいくつかある。経済学の授業的には、顧客満足度、世間評判システム、レピュテーション(評判)効果で、そのようなことをする地下鉄運営会社は顧客に支持されて、売り上げが増える、働いてみたいと思う人が増え、いい人材が採れる、もしかしたら寄付が集まるかもしれない、といった具合に説明される。長期的には合理的だ、という議論だ。
そういう道もあるだろう。しかし、私は、これでは味気ないだけでなく、事実として正しくないと思う。
教科書のケーススタディとしては美しいが、おそらく、ペイしない。車いすを助けているから、この地下鉄に乗ると意思決定する人はいないし、だから就職するという人もいない。寄付などもほとんどしない。
しいて言えば、この駅員が、業務ではあっても自分はいいことをした、という満足感が得られ、従業員満足度が上がるということはあると思うが、定量化できないだけでなく、おそらく、その駅員のエネルギーを別の活動、金銭的な収益に集中したほうが、長期的な利益でさえも実際には増えるだろう。
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