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ペットを「おくりびと」に託した飼い主の深い愛情 「コスメティック剖検」が必要とされている理由

東洋経済オンライン / 2024年10月20日 8時0分

一般的に「解剖」というと、切り刻まれ、バラバラにされた無残な遺体がイメージされるかもしれません。死因を徹底的に追究しようとすると、まさにバラバラになるまで病理解剖をする必要があることもあります。ひと昔前まではそれが普通でした。

しかし、近年では飼い主の感情に配慮し、遺体の損傷を最小限に抑えるような解剖が行われることが増えてきています。

切開箇所を可能な限り小さくし、臓器の摘出後にはていねいに縫合。その後、遺体全体を清潔に整えて飼い主に返却するというもので、これが「コスメティック剖検」です。コスメティック(cosmetic)とは、「繕った・美容のための・整形の」といった意味合いの英語です。

獣医病理医としては、できるだけ多くの遺体を解剖し、病気や死因の情報を集めたいという気持ちがあります。しかし、飼い主さんにとって、ペットは家族同然の存在。死因を知るためとはいえ、多くの人は解剖することに抵抗感を持ちます。

病理解剖の依頼が減少傾向にあるなか、獣医療の発展のために解剖の機会をくださる飼い主さんには最大限の感謝をし、遺体には敬意を払いながら、損傷を最小限に抑えた剖検をしなくてはいけない――ぼくはそのための「コスメティック剖検」の手技を磨いてきました。

ラットの飼い主さんは、昨年末に出版したぼくの著書『死んだ動物の体の中で起こっていたこと』(ブックマン社)を読み、「コスメティック剖検」について知ったそうです。

そして、見た目が変わらずに遺体が戻ってくるのであれば、体調不良の原因を知り、その知識を今後またラットを飼うときに生かしたいと考え、問い合わせをしてくれたのでした。

送る前に一晩考えてもらう理由

ラットはさまざまな学問分野で利用されている重要な実験動物です。病気についての知見はそれなりにあるのですが、それはあくまでも実験動物としてのもので、ペットとしてのラットの病気や死因はあまり研究されていません。

「そのときがくるまで悩まれると思います。亡くなってしまったら一晩よくお考えになってくださいね。それでも病理解剖のお気持ちに変わりがないようでしたら、ご連絡ください」

病理解剖によって死因が明らかになれば、飼い主さんは死を納得でき、悲しみもいくらかやわらぐかもしれません。ぼくとしても、1つひとつの症例の積み重ねが病気の理解につながるため、解剖の依頼はありがたいものです。

しかし、たとえコスメティック剖検であっても、解剖の際には遺体に必ずメスが入りますので、後々、飼い主さんが「かわいそうなことをした」という負い目を心に抱え続ける可能性もあります。

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