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木村石鹸「非効率な」固形石鹸づくり再開の物語 一度やめたものを復活させるのは大変だった

東洋経済オンライン / 2024年10月23日 10時20分

ふつうに考えると、日本で石鹸製造のための大きな設備を維持、管理して、まる一日以上職人に張り付き作業を強いたり、1週間近く粉末石鹸を乾燥させるためのスペースを確保したりするのは、かなり非効率です。

多くの石鹸メーカーが、自社での石鹸製造をやめて、海外からの調達に切り替えたのは、ビジネス面から考えると当然のことと言えるかもしれません。

「釜焚き製法」はカッコいい

僕が木村石鹸に戻ったころも、「釜焚き製法」はいつまで続けるのか、という話題がスタッフの間で囁かれていました。数年前にはあるスタッフから親父に「釜焚きをやめたほうがよいのではないか?」という提案もあったそうです。

そんな話も聞いていましたし、僕自身も、あまりにも割に合わない業務は会社の状況を考えるとやめることも致し方ないことだろうと思っていました。しかし、釜焚き製法の様子を見て、その説明を聞いたとき、僕は感動したんですね。

子どものころ、僕は現・八尾本社の敷地内に住んでいて、製造現場が生活のすぐ近くにありました。何度も釜焚きの様子は見ていたはずなのですが、まったく興味がなかったからでしょうか、ほとんど覚えていません。

木村石鹸に戻って久々に工場内に入り、実際に釜焚きしている様子を見て、こんな大変なことをやっているのかと驚愕したのと同時に、その職人の姿や釜から沸き立つ湯気、乾燥中の粉末石鹸、老朽化が進んだ古びた工場が、ものすごくカッコいいものに見えたのです。

他メーカーが自社での石鹸製造をやめていく中で、木村石鹸が釜焚き製法を続けてきたのは、親父が「やめるな」と言ってきたからです。事業や経営のことにあまり口出しをしない親父ですが、ここだけは譲らなかった。

それは親父が「釜焚き」が好きだという理由もあります。今は足腰も悪くなり、さすがに危ないので無理ですが、よく親父は「石鹸つくりたい」「釜焚きしたい」と言っています。「わしはどんな油でも石鹸にしたるで」と豪語するのです。

あんなに面倒で大変な作業なのに、親父は「おもしろい」「やりたい」と言う。不思議です。そして、おそらくですが、一度やめてしまったら、もう二度と復活させることはできなくなる、という実感もあるのだと思います。

「続けることに価値はある」

後で聞いて知ったのですが、親父は固形石鹸もやりたかったそうです。でも、復活させることができなかった。やめるのは簡単ですが、やめてしまったらもう終わり。二度と、釜焚き復活なんてできない。

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