2029年に最低賃金1500円は「余裕で可能」な根拠 最賃の引き上げは「宿泊・飲食、小売業」の問題
東洋経済オンライン / 2024年11月19日 11時30分
また、「価格転嫁ができないため、賃上げが難しい」という主張もありますが、これは危険です。逆に、それを理由に賃金を上げなければ、価格転嫁をする必要性はその分だけ後退します。
要するに、経営者は価格転嫁をしたくないから賃上げをせずに、物価上昇の皺寄せを労働者に押し付けているとも言えます。賃金が上がれば、価格転嫁の実現が経営にとって重要な課題となり、経営者も必死で取り組むでしょう。
ここに重要なポイントがあります。経済学的に言えば、労働単価が上がると、経営者は設備投資を増やし、生産性を向上させる動機が高まります。労働単価が低いままであれば、途上国で見られるように、設備投資が進まず、生産性向上への動機が働きません。
イギリスの最低賃金引き上げ後の分析でも、最低賃金の引き上げは最低生産性を引き上げる効果があると確認されています。最低賃金の引き上げによって、企業は生産性向上の努力を強いられ、それが結果的に付加価値を増やすことにつながります。
政府としても、物価や社会保険料の増加が続く限り、賃金を上げられない企業を存続させるメリットはどこにもありません。
経営者の発言をデータ分析で検証せよ
私は一貫して、賃上げは日本経済にとって最重要の課題であると主張してきました。その中で、政府が賃金を直接引き上げさせられる唯一の手段は最低賃金の引き上げであり、経済政策として戦略的に引き上げるべきだと強調してきました。
しかし、最低賃金の議論はしばしば感情的です。中小企業の経営者団体は、「失業者が増える」「中小企業が倒産する」「地方が崩壊する」「下請けいじめで大企業が悪い」などと訴えますが、検証してみると、中小企業の経営者団体は一部の中小企業の理屈を一般化し、賃上げの必要性を潰そうとしているとわかります。たとえ一部の企業が困難に直面する事実があっても、それをもって「中小企業全体が困る」と主張するのは誤りです。
現在の中央最低賃金審議会は、労使の意見の腕相撲のようなもので、労働者側は「上げてくれ!」、経営者は「失業者が増える!」といった力比べをしています。それによって最低賃金が決まり、多くの人の生活水準が決まります。
これは杜撰なやり方であり、「地方は大変だ」「中小企業は対応できない」といった経営者団体の主張は根拠に乏しく、不安を煽るものです。
経営者団体の発言は、事後的に検証すると事実と異なることが多く、利権に絡んだ主張として懐疑的に検証すべきです。経験上、経営者団体は嘘をついているわけではありませんが、一部の事実を一般化することで意図的に誤った結論を導く合成の誤謬を主張しており、極めて遺憾です。
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