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コタツ記事が蔓延するWebメディアに対する苦言 ノンフィクション作家が説く現代の「書き手」論

東洋経済オンライン / 2024年12月19日 9時30分

―いま“タイパ”という言葉が流通していますけれども、それとは逆のベクトルで考えないと面白い文章は書けそうにないですね。

タイパでやること自体が無理ですよね。でもそれは何でもそうだと思います。例えば、おもちゃ開発をする場合、おもちゃで遊んだことがない人は何が面白いかわからないわけです。本当にいいおもちゃを開発する人は、人よりもとにかく遊んでいるし、遊びに興味がある。タイパなんて考えていないでしょう。

何が面白いのかを捉えるアンテナを持たないと、いくらやったって無理ですよね。それはおもちゃ開発やライティングに限らず、あらゆる仕事でも同じだと思いますよ。

出版社が育成してくれた時代

―アンテナを育ててまずは書いてみる。そこから先はどうしたらいいでしょうか?

どの世界でも同じですが、やる人は誰に教わらなくても自主的にやるんですよ。しかし、もう1つ上を目指すなら、1人ではできない部分はあるんですよね。僕自身は、大学を卒業後に海外のルポ(『物乞う仏陀』)を自分で書いてデビューしましたけれど、その後はいろんな編集者がついて育ててくれました。

「単発で書かせてみよう」「うまくいったら連載を書かせてみよう」「今度は違うテーマでやらせてみよう」と、いろんな機会をもらえました。雑誌の連載枠を目指すという状況があったからこそ、自分独自のものは何が書けるのだろうと常に考え続けてやってきました。失敗することはたくさんありましたけど、そういうときは役員クラスの人が守ってくれました。

叩き上げで週刊誌をやってきた編集者が取材に同行してくれて、誰からどのように取材をすれば話を引き出せるのか、あるいは文章表現で読み手に勘違いを引き起こさないように伝えていくにはどう書くのがいいのか、そして企画の切り口についてもひとりではたどり着けない新しい視座をくれるのです。

こちらが出した企画に対して、これを組み合わせたらどうかと企画をより深める提案をくれるわけです。例えば、中森明菜さんを取り上げたいとき、彼女だけでなく、陰と陽の対比で松田聖子さんと中森明菜さんを一緒にやったらどうかと。太陽と月のように対比がはっきりしたほうが彼女たちの個性がより浮き彫りになるし、読み手を惹きつける内容になります。ここで得た企画の視点は、別ジャンルの取材でも生きてきます。

このような仕事論を、数日おきに出版社の垣根も越えて編集者たちと集まり、夜通し酒を飲みながら語り合いました。みんな根底には文芸やノンフィクションが好きな気持ちがあって。今自分が持っているスキルはそういった環境の中で培われてきたものです。

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