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「日大帝国」築いた独裁者の人心掌握術と権力基盤 「民主的でかつ効率的な組織」が存立可能な条件

東洋経済オンライン / 2024年12月30日 10時30分

日大のように建学者から数えて100年を超える伝統がある大学の場合は、そこに堆積した先人の「思い」が固有の磁場を形成していて、卒業生や在校生を惹きつけるということがある。「学統」に連なっていることが己のアイデンティティーの基礎づけになるのである。

おそらく田中は日大の一員であるという帰属感に人格的な安定感の大半を委ねていた人だったのだろうと思う。

田中英壽は「帝国」と呼ばれるほどの独裁体制を創り上げた。田中に批判的な立場から書かれている本書でも、田中自身が意地汚く個人的な蓄財に励んだとか、イエスマンに取り囲まれて増長したとか、目下の人間に不要な屈辱感を与えたというような記述はほとんどない。むやみに威張り散らすタイプの人ではなかったらしい。

田中は運動部を束ねる保健体育審議会(保体審)と120万人の会員を誇る校友会という2つの組織を足場にして、5期13年にわたり絶大な権力を振るった。だが、その「絶大な権力」を獲得するために田中が採用した手段はずいぶん非効率的なものであった。

保体審は各運動部の部長や監督コーチを招いて原宿の南国酒家で年に数回の宴会を行った。田中はそこで運動とはもともと縁がないけれども、名目上「部長」や「副部長」の肩書を与えられた教員たちの間を遊弋(ゆうよく)して「部長」と持ち上げ、「いい気分」にさせることに細かい気づかいを示した。

「これもまた、田中の人心掌握術・人脈づくりの一つなのであろう。運動部の部長に推薦された学部長は、たいてい田中シンパになった」(115頁)と森は書いている。

保体審と校友会という2つの権力基盤

学部長は理事になる。全学部の学部長を「シンパ」にすれば理事会で圧倒的多数派を形成することができる。単純な足し算であるが、これを恐ろしいほど愚直に行ったところに田中の非凡さはある。

大学経営に隠然たる力を持つ巨大組織校友会は田中体制が始まる前は混乱のきわみにあった。大学から受け取る運営予算をOBたちが「打合せ」と称して飲み食いに蕩尽し、にもかかわらず評議員や理事の選出母体として大学運営にはうるさく口を出した。田中は校友会本部の事務局長になると校友会刷新に乗り出し、それに成功した。

「全国各地の支部の会合に精力的に顔を出す一方、上京してきた地方の役員や幹部とも気軽に酒を酌み交わし、あちこちに『田中シンパ』を生んだ。そうして着々と自らの権力基盤を固めていったのです」(122頁)という証言を森は拾い上げている。これもずいぶんと手間のかかる派閥形成だけれど、手間がかかる分だけ確実だということはあるだろう。

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