アサヒがつくる「飲めない人も通える」バーの正体 おしゃれな渋谷のノンアルバーに集う人とは?
東洋経済オンライン / 2025年1月11日 7時30分
この日はバーテンダー歴13年、フランス出身のミシェルさんが来店客と笑顔で会話しながら手際よくカクテルを作っていた。季節ごとに登場する限定ドリンクなど、メニュー開発も担当している。
ノンアル・低アルカクテルを作るのは簡単ではない。ミシェルさんによれば、アルコールは味の深みや複雑さを作り出す1要素。ノンアルだと味の奥深さやキレなどがどうしても出にくくなってしまうという。アルコールの殺菌作用を活用できず、通常のカクテルより腐りやすいのも難点だ。
そこで、野菜や果物、スパイスなどの材料を何通りも組み合わせ、度数の高いカクテルと遜色ない味にできるよう試作を繰り返した。保存のためにはカクテルの基となる素材を真空パックして冷凍するなど、現在もつねに試行錯誤しているという。
「商品開発は大変、だからこそやりがいがある。作り手にとっても非常に面白い業態です」(ミシェルさん)
「スマドリ」で酒類市場縮小に立ち向かえ
同店は、オープン後1年間の来店者数が累計約5000人だった。20~30代のカップルや女性客、外国人観光客などを中心に「グループに飲めない人もいるが、雰囲気のよい場所に行きたい」との目的で訪れる人が多い。
お酒を飲む、飲まないにかかわらず、気兼ねなくおしゃれな雰囲気を楽しむ場所として、一定の評価を受けているといえそうだ。
アサヒビールは、2020年から飲める人も飲めない人もお酒の場を楽しむというコンセプト「スマートドリンキング」(スマドリ)の普及に力を入れてきた。スマドリバーの運営はこうした取り組みの一環だ。
アサヒの推計では、国内の20歳以上の人口約9000万人のうち、お酒を飲まない・飲めない人は約5000万人もいる。だが、同社は長い間、この層へ十分なアプローチをしてこなかった。
「パーティなどで盛り上がりたいときでも、お酒を飲まない人の選択肢はコーラやウーロン茶しかなかった。魅力的な商品を提案できていなかったことをすごく反省している」(アサヒグループホールディングスの勝木敦志社長)
他方、健康志向の高まりなどを背景に、ノンアル・低アル(微アル)市場の成長は続いている。アサヒのノンアル飲料(アルコール度数0.5%を含む)の販売金額はこの10年で急拡大した。
こうした背景から、アサヒは大規模な広告投資などを通じ、スマドリの普及、ノンアル・低アル商品の拡充に全力を注いでいる。スマドリの認知率も2024年11月末で43%(アサヒ調べ)と順調に伸ばしてきた。
ノンアル、低アル市場が成長のカギ
さらに、アサヒはビール類、RTD(缶チューハイ、ハイボール缶など)、ノンアル飲料の総販売容量のうち、アルコール度数3.5%以下の酒類とノンアル飲料の構成比を2025年までに20%に高めることを目指している。
2019年の実績は約6%で、2023年は約10%だった。2024年はノンアルビールの新商品「アサヒゼロ」がヒットしたこともあり、着実に上昇したとみられる。
国内の酒類市場は、人口減少などにより縮小が確実視されている。今後の成長のためには「顧客」ではなかった、お酒を飲まない・飲めない消費者も囲い込む必要がある。
スマドリを体現する実店舗や、商品ラインナップの拡充で新たな顧客を増やせるか。ノンアル・低アル需要の開拓に向けて、今後もアサヒのさまざまなアプローチが続きそうだ。
田口 遥:東洋経済 記者
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