「バーチャル世界」で希望格差を埋める若者たち 「努力が報われない仕事」が早々に見切られる訳
東洋経済オンライン / 2025年1月15日 12時0分
その中身は「ドラゴンクエスト」が典型だが、基本は、様々な課題を乗り越えて、努力して技術を磨けば、結果が得られるということである。ソーシャル・ゲームでは、参加している人同士で助け合いながら、課題を達成することもできる。これらは、「疑似成功体験」つまり「努力が報われるという感情」を売るシステムといってよいのではないか。
もちろん、リアルな場で成功体験を感じることが可能な人であっても、時々、バーチャルな世界で疑似成功体験を感じたいということはある。しかし、現実に仕事で成功体験が感じられない人にとっては、バーチャルな体験のみが、希望の場となるのだ。
15年以上前、私の大学のゼミ生が「ゲームセンターに集まる人」を調査して卒論を書いたことがある。その中で「仕事なんてつまらない、ゲーセンに来れば、仲間がいて、高得点を出せばみんながほめてくれる」という語りが典型としてあったのが、印象的である。
彼らにとって、現実の仕事は、ゲームの世界に浸るためのお金を稼ぐためだけの単なる手段。だから、単純でつまらなくても耐えられる。努力が報われるという生きがいは、ゲームの世界の方にある。
インターネットが発達した現代では、わざわざゲームセンターまで出向かなくても、自宅でネットゲームをしていれば、仲間と出会え、協力しながら課題をこなして、高得点を得る(敵を倒す)という成功体験を得ることができる。それが通勤途中の電車の中でも可能なのだ。まさに現実の希望格差をバーチャルな世界で埋め合わせている。
疑似仕事としてのマニア、オタク
一昔前、昭和の時代には、マニアというと特殊な趣味の世界であり、オタクと言えば「1人で部屋に籠もり、公には言えないものを密かに集めているネクラの男性」というイメージがあった(例えば、大塚英志『「おたく」の精神史』2004年)。ここでは、「オタク」を、1つのことにこだわり様々なモノやデータを収集して楽しむ人と定義しておこう(小出祥子『オタク用語辞典 大限界』2023年)。
そして、平成を通じて、そのオタク、マニアに対する評価は好転し、令和に入ってからは、イメージが好転しているだけでなく、人数的にも増え、女性の参加も増えている。これにもリアルな仕事の世界での希望の喪失の進行を背景にして、マニアやオタクがしていることが「疑似仕事」化しているのだと解釈している。
マニアやオタクの基本は、「収集」という努力にある。努力して、特定の分野の様々なグッズや情報、そして、体験を収集することにお金や時間をつぎ込む。そして、その収集物が、何らかの形で、その仲間たちから評価されることを目指す。
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