「バーチャル世界」で希望格差を埋める若者たち 「努力が報われない仕事」が早々に見切られる訳
東洋経済オンライン / 2025年1月15日 12時0分
つまり、リアルな仕事の世界のバーチャル版を趣味仲間の間で作っているとも言える。そこには、鉄道マニアや釣りのような伝統的で確立された趣味世界もあれば、アイドル・オタク、コスプレ趣味など比較的新しい世界もある。
もちろん、趣味のコミュニティは、昔からあった。例えば、鉄道マニアは、社会学者の中央大学 辻泉教授が調査しているように、戦前から存在していた(辻泉『鉄道少年たちの時代』2018年)。しかし、一昔前は、富裕層である一部の好事家がたしなむものであり、少数の仲間と楽しむことが多かったと考えられる。
昔は、その多くは、リアルな世界でも定職を持ち、趣味の一種として別の世界を楽しんでいる。つまり、努力が報われる場をリアルとバーチャル、2つ持っていると言えただろう。もちろん、今でもそのような人も数多くいることは確かである。
「いいね」の数で評価を実感
ただ、平成を経て令和となった今では、「マニア」の世界は、ゲーム世界と同じように、「成功体験」をリアルで得られなかった人にとって、その体験をバーチャル世界で埋め合わせる機能を持つようになっている。
それは、インターネット世界の発達と関連している。特殊な趣味を持つ人であっても、同じ趣味の人とつながりやすくなり、ネット上でのコミュニティが作りやすくなる。すると、共通の趣味を持つ人たちの間で、お互いの努力を認め合う場が形成される。
リアルな仕事の世界では、お金をメディアとして、努力が報われるということが実感できる。努力の成果は収入という形で確かめることができる。
それと相似形の構造として、ネット・コミュニティの世界では、いわゆる「いいね」というコメントのヒット数がメディアとなる。ネット上で読まれ肯定的に評価されるしるしである。「いいね」がたくさん得られれば、自分の趣味上の努力が評価されたという実感を得ることができる。
まさに現実世界では埋まらない格差を、バーチャル世界で埋めることで、生きていくための「希望」をつなぐことができるのである。
(構成・中島はるな)
山田 昌弘:中央大学 文学部 教授
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