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ヤマザキマリ「飢えは多くのことを教える」の真実 実体験で腑に落ちたラテン語の格言が意味すること

東洋経済オンライン / 2025年1月16日 17時0分

母はそんな私の様子を見ていたんですね。自分が行けなくなったから代わりに行ってくれ、チケット代がもったいないからと、パリ往復のチケットを渡されました。

うちの母はシングルマザーでしたが、大胆で、直観力があり、石橋も叩かずに渡ってしまうような性格の人でした。何に対しても「やってみるまでわかんないじゃないのよ。やってみて失敗したらやり直せばいいのよ」という考えの人でした。

それはたぶん、戦争という不条理と理不尽を経験してきたからだと思うんです。そういう母親に育てられたから、私も予定調和を期待もせず信じることもせず、かつ石橋を叩きすぎることはあまり良くないと思う人間になってしまいました。

待っていても運は来ない

というわけで、とりあえず行ってみてダメだったらまた戻ってくればいい。そんな感覚で14歳の一人旅も、17歳のイタリア行きも決断したように思います。

その勇敢さや大胆さが運を自分にもたらしたかどうかは別としても、少なくとも母の提案を実践してみようという決断があったからこそ、今の自分があるのは確かです。

イタリアの美術学校に入って貧困生活を強いられながらも様々な人と出会って多くの経験をしたことも、同棲していた彼氏との間に子どもが生まれたことも、専攻していた油絵をいったん諦めて漫画の道に進むことにしたのも、その後14歳の一人旅で出会ったおじいさんの孫と結婚することになったのも、『テルマエ・ロマエ』という漫画を描いたことも、すべて旅に出る決断がもたらした結果です。

待っていても運は来ない。自分で行動を起こしたほうが運に当たる確率が高いというのは、そういった経験を踏まえても確かにあるような気がします。

飢えは多くのことを教える

ラテン語:こんな格言も、ヤマザキさんは選んでいます。

multa docet fames「飢えは多くのことを教える」

ヤマザキさんはイタリアでの貧困生活からいろんなことを学んだという話ですが、やはりこの言葉の通りでしょうか?

ヤマザキ:まさにこの言葉通りです。まるで私が生み出した格言のようです(笑)。あらかじめ貧乏覚悟で入った美術の道ですが、実際、本当に食べるものもなく、借金だらけになってくると、毎日が苦しくて仕方がなくなります。

「なんでお金がないんだろう」「どうして自分はお金を得られないんだろう」という考えが次第に「なぜこの世に金なんてものがあるんだ」「資本主義はひどい」などと、どんどんアグレッシブなことを考えるようになって、性格も歪んでいきます。お金を持っている人を羨ましく思ったり、妬ましく思ったり。本当に明日どうなるかわからないくらい飢えた状態に置かれないと、芽生えてこない感情というのが実はたくさんあるのです。

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