ニューヨークの死体調査官が目撃した悲惨な現場 「死体と話す NY死体調査官が見た5000の死」
東洋経済オンライン / 2025年1月18日 15時0分
小さな遺体の損傷と、ほこりっぽくてがらんとした部屋の写真を撮り、火傷していない太ももについた奇妙な格子状の跡に首をかしげた。焼けただれた顔は不気味な笑みをたたえたまま固まり、上下の唇がめくれて並びの良い白い歯がむき出しになっている。燃焼によってできるアーティファクト。つまり身体が燃えた影響で、検視者の誤解を招くようなものが見つかったり、外見が変化したりする現象だ。高熱で筋肉や腱から水分が奪われ、収縮して硬くなる。少女の四肢はねじれて曲がり、背中は丸まっていた。両手を固く握りしめ、両腕は上方に湾曲し、両膝は曲がっていた──まるで戦っているように見えるため、〝ボクサー姿勢〟と呼ばれている。だがこの子は戦わなかった。勝ち目もなかった。
「なあ、バーバラ」。刑事は咳払いしてから口を開いた。「この仕打ちを受けた時にこの子は生きてたのかな?」。彼はそう質問したが、その答えは知らない方がいいのかもしれない。
「いくつかの火傷は死後のものね」とわたしは言った。「でも鼻の穴と口の中に煤がある。おそらく呼吸をしてたんでしょう。詳しいことは明日の検死でわかるでしょうね」
「本物のクズ野郎だよ、こんなことをする奴は」と巡査が声をひそめてつぶやいた。
生きた人間の身体が負傷または火傷すると、生活反応が見られる。血液やリンパ液が傷ついた部位にどっと流れて、紅斑、腫れ、水疱、出血、炎症などが起きる。死んでいる人も火傷を負うが、身体の防御機能は反応しない。死後に負った火傷は外見も異なり、黄褐色で革のような質感をしている場合が多い。身体が燃えている間に呼吸をすると、鼻の穴か口から煤が入り込んで喉頭や気管や肺にまで流れ込む。
レニーがスケッチブックを取り出して絵を描き始めたが、メトロポリタン美術館にいる美大生みたいでちょっと不釣り合いに見えた。鑑識班は証拠書類のために写真を撮るだけでなく、現場のスケッチを描き、室内にあるものの配置をメモする。署に戻ると、彼らは実寸に基づいて絵を完成させる。こうすると絵を見た人は状況を把握しやすくなり、現場写真への理解が深まり、陪審員が事件を頭の中で再現するのに役立つ。
あまりに無慈悲な行為
鑑識班が現場を測定することになり、わたしたちは移動しなければならなくなった。
わたしは数人の警官と一緒に屋上へ出た。
「シフトが終わったらみんなで飲みに行くんです」と警官の一人が言った。「酒が必要になりそうですからね。先生も……先生も一緒に来ませんか」
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