ニューヨークの死体調査官が目撃した悲惨な現場 「死体と話す NY死体調査官が見た5000の死」
東洋経済オンライン / 2025年1月18日 15時0分
わたしも行きたかった。心底から。どこかの薄暗いバーで彼らと一緒に過ごして、悪夢のような光景をすべて忘れたかった。飲みたかったからではない。わたしと同じものを目撃した人たちと一緒にいたかったのだ。目にしたばかりの一種の邪悪な行為……非人道的な残酷さ、人間性を裏切る行為。あまりに無慈悲な行為だった。警官たちと一緒にいるだけで気が休まるだろう。といっても、事件のことは話さないだろう。お互いをからかうか、「仕事」の愚痴を言うことの方が多かったのだ。
「うちの部署で一番頭のいい男だけど、それを真っ先に周囲にひけらかすんだよな」
「ふざけやがって。内務局では働かないぞ。卑劣な連中だ」
「で、そのポン引きがガールフレンドの写真を見せてくれたんだ。それがさフィル、神に誓って言うけど、その子はきみがジミーのパーティに連れて来た子にそっくりだったんだよ。きみはまだあの子と付き合ってるのか?」
とりとめもない雑談は役に立っただろうし、確かに、わたしには笑いが必要だった。でもこの種の恐怖に対してしらふでいられるか試すつもりはなかった。この六年間、わたしは一度も酒を飲むことなく断酒を続けてきた。アルコホーリクス・アノニマスのミーティングには、前ほどではなかったが通っていたし、プログラムも続けていた。周りで人が酒を飲んでも気にならなかった。簡単にやり過ごせた。だがこのような邪悪な行為を見てしまうと、それを口実にアルコールで自分を麻痺させかねないし、そんなリスクは取りたくなかった。感情の暴走を止めなければならない。バーに行ってはいけない。今日はダメだ。
わたしは屋上の欄干のところへ歩き、街を見渡し、それから祈った。あの少女が火をつけられる前に亡くなっていて、痛い思いをしていませんように、と。わたしがしらふでいられますようにとも。この時ばかりは自分の身体から抜け出して、見たものを見なかったことにして、記憶から消したいと思った。酒に酔えば気はまぎれるが、ほんの一時的なものだ。他の悲惨な事件でも同じような気持ちになったことはある。だがこの少女の死の何かが、いつも以上にわたしを打ちのめした。
少女の身元は、足首に巻き付けられていた黒焦げの金属のアンクレットから判明した。半分になったハート形のチャームがついたアンクレットは、ローザ・カストロが娘のジョハリスにプレゼントしたものだった。コンピューター・サイエンスを専攻するその19歳の大学生は、家族の自慢だった。美人で活発な少女は、今後ずっと過去形で語られることになるのだ。
検死でわかったこと
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