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5000人以上の遺体と向き合った死体調査官の記録 「死体と話す NY死体調査官が見た5000の死」

東洋経済オンライン / 2025年1月18日 15時3分

「良かったら、わたしがこれまでに学んだことをいくつか教えよう。まず、検察官と被告側の弁護人を平等に扱い、同じように注意を向け丁重に接することだ。きみはどちら側の味方でもない。あくまで中立的な立場の証人なんだ。質問されたら10秒考えよう」

「10秒? そんなに長い間黙っているんですか」

「なら、最低5秒だな。永遠のように長く感じるかもしれないが、その間に頭の中でどう返答するかを考えられるし、相手から挑発されても反射的に反応するのを避けられる。それから、陪審員に顔を向けて彼らに答えるんだよ、弁護士じゃなくてね。事実を審理するのは陪審員なのだから、彼らに全注意を向けるんだ。陪審員一人ひとりを見て、質問の範囲内で最善を尽くして話すことだ」

「裁判中に邪魔が入ることがありますよね。『質問に答えてください。イエスですか、ノーですか』って」

「そう言われたら、そうすればいい。弁護士が攻撃的になればなるほど、きみは礼儀正しく忍耐強く接するんだ。陪審員はきみのプロ意識に敬意を払い、ちゃんと話を聞いてくれるだろう」

彼の言うことが正しいとわかったし、裁判の前に相談すれば良かったと思った。彼は求められてもいないのに誰にでもアドバイスを押しつけるような人ではない。

「さあ、もう帰っておいしい夕食にありつきなさい。大変な一日だったんだからごほうびが必要だ」

わたしはすっきりした気分で彼のオフィスをあとにしつつも、彼があれほどの紳士じゃなかったら、どう対応しただろうかと思った。ドクター・ハーシュは、わたしの気分が最悪で、何を言おうがこれ以上悪くならないことを知っていた。そしてわたしの失敗を否定するのではなく、次回もっとうまくやるにはどうしたらいいかを教えることで、わたしを元気づけることを選んだ。

州検察官による尋問

そして今、わたしはアーロン・キーが裁かれる法廷の外にいた。間もなくジョージ・ゴルツァーからの反対尋問が始まる。緊張したため、自分を落ちつかせるために女子トイレに行った。わたしは天井を見上げて神に祈った。「神よ、どうか自分の仕事をきちんとこなせますように」。それからドクター・ハーシュのことや彼から教わったことを思い出した。アルコホーリクス・アノニマスから、演じなさいと教わったことを思い出し、ドクター・ハーシュになったつもりで演じようと決意した。しらふを演じなさいという主旨のプログラムだったが、法廷でも使えるなら使ってもいいではないか。これなら冷静で、礼儀正しく、落ちついていられるだろう。

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