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5000人以上の遺体と向き合った死体調査官の記録 「死体と話す NY死体調査官が見た5000の死」

東洋経済オンライン / 2025年1月18日 15時3分

その日わたしは、一番良いスーツを着用した。ブルックスブラザーズの黒の上下にパリッとした白のブラウス、黒のパンプス。まるで弁護士のように見えた。これを着ると強くなったような気がして、思慮深さ、落ちつき、自信にあふれた態度といった、その場にふさわしい雰囲気を醸し出せるのだ。

州検察官による予備尋問が始まった。裁判を始める前に、鑑定人が適格であるかを調べるプロセスだ。検察官からはわたしの経歴、資格、経験、鑑定人として法廷で証言したことがあるかなどを質問された。その次はゴルツァーの番だ。学歴について問われた時、わたしはコロンビア大学で公衆衛生学の修士号を取得したと答えた。ゴルツァーはすかさずその高学歴を打ち消そうとした。「ミス・ブッチャー、そのコロンビア大学の学位は、この事件のあなたの仕事とは何の関係もありませんよね?」。彼がまたしてもわたしの資質と信用性を攻撃しようとしているのがわかったが、こちらも攻撃には備えていた。

わたしはにこやかな笑みを浮かべた。「ええ、この事件とは何の関係もありません」

スドルニック裁判官がわたしを死体調査の専門家として認めたあと、プランスキー州検察官による直接尋問が始まった。わたしは目撃したことを描写して、その一つひとつが何を意味するのかを陪審団に説明するよう求められた。ジョハリス・カストロがいた場所、ねじ曲がった身体、重度の火傷。法廷に遺族がいたため、わたしは少しの間ためらった。それから深呼吸すると、できるだけ感情をまじえずに淡々と凄惨な現場を描写した。仕事をやらなければならない。尋問の途中で、州検察官が大きなスクリーンに何枚かの写真を映して、なぜ火を放たれた時にジョハリス・カストロが意識を失っていたと思われるのですかとわたしに尋ねた。写真には彼女が寄りかかっていた壁が写っていた。ライトグレーの軽量ブロックの壁の、彼女の背中と頭が寄りかかっていたところにうっすらと白い輪郭ができていた。その輪郭を取り囲むようにして、彼女の焼死体から放出された黒い煤がついている。

わたしは写真を指差して、陪審員に説明した。「この輪郭から、彼女が壁にもたれかかり、頭は肩の方向に傾いていたことがわかります。炎に包まれて身体が焼かれた時に意識があれば、耐えがたい痛みと苦痛でじっとしてはいられなかったでしょう。壁に寄りかかって座っていなかったはずです」。局長から教わったとおり、わたしは質問を聞き、少し間を置き、それから陪審員に向かって話した。陪審員たちに、被害者の鼻と喉に煤がついていたことを話し、それはつまり火がついた時に彼女が呼吸していたことを示すと説明した。検察官は、わたしが気づいたことを陪審員に説明するのに必要な時間を与えてくれた。

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