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5000人以上の遺体と向き合った死体調査官の記録 「死体と話す NY死体調査官が見た5000の死」

東洋経済オンライン / 2025年1月18日 15時3分

次はゴルツァーがわたしに反対尋問をする番だ。

「ミス・ブッチャー。ジヴィニス消防士は、今日、火を消したのは自分だと証言しました。消防士がホースと水で消火した際に、壁についていた煤を洗い流したために、ミス・カストロの遺体の形をした輪郭が残ったのではないでしょうか?」

わたしは彼の質問に耳を傾け、少し考えてから、陪審員に話しかけた。「オーブンの中か、薪ストーブのガラス扉を掃除したことがある人なら、煤が油っこくて、水では簡単に落ちないことがわかると思います。煤を落とすのは容易ではなく、強力な洗剤が必要です。それから消防士はホースを使ったのですか。それとも、小火だとわかって消火器で消したのでしょうか。わたしは知りませんので、消防士に訊いてください」。わたしが話している間、何人かの陪審員は同意するようにうなずいていた。オーブンの掃除をしたことがあるに違いない。

するとゴルツァーは、煤が遺体から出たものだと証明できるのかとわたしに尋ねた。「この輪郭のようなものは、身体以外の何かからついた可能性はありますか?」

「その可能性は低いと思います」

「でも可能性はあるんでしょう?」

「ええ、可能性はあります」

彼は質問の範囲を広げて、遺体の大きさと軽量ブロックの大きさを比べてくれと要求してきた。そんなことをしても無意味だったが、その時点で彼は何かをしようと必死だった。わたしは軽量ブロックの平均的な大きさを知らなかったし、知らないことを証言するわけにはいかない。キーは無感情な眼差しでわたしをじっと見ていた。

「ミス・ブッチャー」とゴルツァーが言った。陪審員にわたしが医師ではないことを印象づけるために、彼は毎回「ミス」を強調した。「現場に到着した時に炭化水素系の燃焼促進剤のにおいがしたとおっしゃいましたね? そこでお聞きしますが、あなたはにおいの専門家ですか?」

「いいえ」。わたしはそう答えたあと、再び陪審員に顔を向けた。「でも、自分でガソリンを入れてますから」。数人の陪審員が笑みを浮かべた。

その後も何度かやりとりしたが、ゴルツァーは何とかして、ジョハリス・カストロが自ら火をつけて焼身自殺をはかったとほのめかそうとした。わたしは冷静で礼儀正しく、プロフェッショナルな態度を維持して陪審員に事実を話した。生活反応、煤がたまっていたこと、火傷によるアーティファクトなど、陪審員が正しい判断を下すのに必要な情報をすべて説明した。

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