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「脱サラしたプロ棋士」1年半で見た"棋界のリアル" 小山怜央四段が直面した、厳しさと凄みの日々

東洋経済オンライン / 2025年1月25日 9時0分

ちなみに藤井聡太七冠の2023年度の対局料と賞金額の合計は、1億8634万円だった。この他にイベントや番組出演料、著作印税なども入る。この金額はトップ棋士の場合だが、新人棋士の収入はどうなのか?

「現状は会社員時代に比べて、劇的に増えたということはない程度です」

公式戦はトーナメント方式が多いため、勝てば対局が増え、負けが続くと間隔が空いてしまう。週に数局のときもあれば、2カ月近くないこともあった。

「収入は多い月と少ない月では差が大きいですね(笑)。感覚としては月収というより、年収で考える感じです」

新人棋士にもイベントへの出演や将棋教室の講師などの仕事が入ってくる。依頼は日本将棋連盟を通しての場合が多いが、棋士は独立事業主で、仕事を受けるかどうかは個人の判断に任される。プロは将棋の普及を大切にしており、公式戦の日程と調整がつく限りは積極的に受けているようだ。

それでもまだ月に20日くらいはスケジュールが空いているが、その時間はどうしているのだろうか。

「私は月に研究会を10日くらい入れています」

研究会とは、棋士が数人で行う棋力向上のための将棋の稽古だ。メンバーの違う研究会をいくつも掛け持ちして、各棋士が技術を磨いていく。

また1対1でやる場合を「VS」と呼ぶ。多い棋士では研究会やVSを月に15日から20日も行う。AIが登場して以降、将棋の定跡の進歩は目覚ましく、少しでも研究を怠れば取り残されてしまうようになった。ボクサーが月に1試合しかなくても、練習を欠かさないのと同じだろう。

毎月顔を合わせる研究会仲間とは、個人的な付き合いがあるとは限らない。メンバーとなるのは互いの実力を認め合っているからだが、ライバルであることにも変わりはない。

「親しい棋士でも対局が決まれば、しばらく会わなくなります。どんな対局でも、負けた後はその場にいたくないほど悔しい。なんでもいいからその痛みを誤魔化したくなる。でも一晩寝れば、次の対局に向けて気持ちは切り替わります。負けを引きずらないことが大切ですから」

伝統を重んじるが、パワハラがない棋界

将棋界は伝統を重んじる世界だ。一般には、上下関係を重んじる場所は窮屈だったり、人間関係でのストレスがあったりしそうなものである。

「将棋を始めたときから、礼儀だけは必須だと教えてこられました。ただ将棋界はかなり自由な社会で、もし少し苦手な人がいたら関わらなければいいだけですし、人間関係は気持ちの上でだいぶ楽ですね」

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