「脱サラしたプロ棋士」1年半で見た"棋界のリアル" 小山怜央四段が直面した、厳しさと凄みの日々
東洋経済オンライン / 2025年1月25日 9時0分
小山にとっても過ごしやすいという将棋界では、パワハラも見たことがないと話す。
「そういう考え方の人はあまりいないです。棋士は子どものときからプロを目指してきて、これからもずっと将棋を続けていくという、純粋な気持ちを持っている人の集まり。その意味では、居心地の良い場所だと感じています」
小山がプロになってからの活躍を見ていこう。
将棋界には、レジェンドと呼ばれる棋士がいる。その1人が谷川浩司十七世名人だ。最も歴史あるタイトル「名人」を、1983年に当時史上最年少の21歳2カ月で獲得した。この記録は2023年に藤井聡太が20歳10カ月で名人になるまで、40年間破られることがなかった。
小山が将棋を始めた頃、谷川は40歳を過ぎてタイトル争いからは遠ざかっていたが、そのスター性は依然として輝きを放っていた。
「私は将棋を始めたときにゲームソフトを使っていたのですが、その中に谷川先生のキャラクターがありました。キャッチフレーズの『光速の寄せ』が格好よくて、すごく印象に残っています」
『光速の寄せ』とは、勝利に向かって一気に切り込む谷川の棋風を表したもので、その正確さとスピードは多くの棋士の憧れとなった。
ついに「レジェンド」との対局
そして昨年7月15日、夢の対局が実現した。
「私にとって谷川先生は別世界の人というか、盤を挟んでいることが本当に現実なのかと感じました」
この対局は、小山にとってフリークラスを抜ける重要な一局でもあった。
小山のように編入試験から棋士になった場合は、最初は棋士の階級を表す順位戦への参加資格がない。他の棋戦で規定の勝利数と勝率を上げるとランクインできる。このハードルも簡単なものではなく、小山はデビューからここまで1年半近くを要してきた。
ちなみにフリークラスには在籍が10年間までという期限があり、その間に順位戦に入れなければ引退になってしまう。プロになっても安泰ではないのだ。
谷川との棋戦はNHKのEテレで放映される「第74回NHK杯将棋トーナメント」で、小山は予選を勝ち抜いてこの初出場を勝ち取った。
将棋は小山が研究会で指したことのある戦型になった。持ち時間の少ないテレビ棋戦において、このアドバンテージは大きい。谷川の鋭い攻めを凌ぎ、小山は大きな勝利を挙げる。将棋界のレジェンドを破った興奮は大きかったのではないか。
「それはもちろんありますけども、これで引退の心配がなくなったという安堵感が大きかったです(笑)」
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