イーロン・マスクに敗れた「カラ売り屋」冬の時代 長期の上げ相場という逆風、放置されるイカサマ企業
東洋経済オンライン / 2025年1月29日 8時0分
去る1月15日、「ウォール街で最も恐れられるカラ売り屋」の異名をとったニューヨークのヒンデンブルグ・リサーチが突然廃業を発表し、関係者を驚かせた。
同社は、コネチカット州出身のユダヤ人、ネイサン・アンダーソンが2017年に旗揚げした、アクティビスト型カラ売り専業会社だ。株価が過大評価されている企業を探し、カラ売りを仕掛けて売り推奨の調査レポートを公表、株価が下がったところで買い戻して利益を得る。
ヒンデンブルグ・リサーチは2023年1月、インド屈指の財閥でモディ首相とも結び付きの強いアダニ・グループの不正会計を指摘、同グループの時価総額の6割を超える1450億ドル(約22兆6200億円)を吹き飛ばし、話題となった。
2020年9月には、水素トラック・メーカー、二コラ社が、エンジンも何も付いていないはりぼてのトラックを坂道で転がし、走るように見せかけた動画で投資家を欺いたと暴露した。最高値60ドル台だった同社の株価は10ドル台まで急落し、創業者で会長のトレヴァー・ミルトンは辞任に追い込まれ、ニューヨーク連邦地裁で、証券詐欺などで懲役4年の実刑判決を受けた(控訴中)。
トランプ支持者の投資会社も標的に
その他、半世紀以上にわたる名うてのコーポレート・レイダー(企業襲撃者)でトランプ支持者、カール・アイカーンの投資会社アイカーン・エンタープライゼスや、ヘルスケア企業のクローバー・ヘルスなど、8年間で少なくとも75の会社の株をカラ売りした。
廃業の理由について、ヒンデンブルグ・リサーチのアンダーソンは「われわれは目指していたことは達成した。揺さぶるべき企業帝国は揺さぶった。しかし、企業と闘っているか、闘いの準備にほとんどの時間を費やした過去8年間は、負担の大きなものだった」と述べ、健康上の理由や業績不振等の理由ではないとした。
また将来にわたって家族を養うのに十分な金を稼いだので、今後は自分の手法を他者も活用できるよう、リソースや研修資料を共有し、インデックスファンドなどストレスの少ない投資を行いつつ、趣味、旅行、婚約者や子どもと過ごす時間を大切にするとしている。
確かに同社のリサーチは詳細を極め、またカラ売り対象企業から訴訟を起こされることも少なくなかった。総勢11人程度の会社にとって、そうした手法で75以上のカラ売り案件を手がけるのは負担が大きかっただろう。バーンアウト気味になって、もう少し落ち着いて生活なり仕事なりをやりたいと思ったとしても不思議ではない。
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