「玉砕を許されなかった兵士」知られざる沖縄戦 『戦場の人事係』を書いた七尾和晃氏に聞く
東洋経済オンライン / 2025年1月30日 11時0分
太平洋戦争末期の沖縄本島南部戦線で石井耕一氏は、自身が所属していた中隊における下士官18人のうち唯一の生存者だった。
絶望的な戦場にあって石井氏は多くの仲間を看取り、その死を記録し続けた。石井氏のメモには、部隊の仲間がいつ、どこで、どのようにして戦死したのかが克明に記されていた。その詳細は司法解剖で見る遺体検案書よりも詳しく、壮絶を極めるものだった。
沖縄戦および戦後の沖縄について書き続けてきた筆者は、石井氏から兵士の家族関係や経歴などが記された“戦時名簿”(軍籍簿)を見せられ、兵士たちの死亡記録ともいうべきメモの一部を託された。石井氏がこの世を去る3年前のことだった。それらを基にした取材を経て上梓されたのが、本書『戦場の人事係』(草思社刊)である。
筆者は宰相や司令官など著名な人物ではなく、無名の人物に寄り添うことで、戦争をはじめとして消えゆく歴史に光を当ててきた。本書はその仕事の集大成ともいうべき力作である。
──『戦場の人事係』に記されたエピソードはどれも重たいものばかりです。沖縄本島の各地をご自身で歩いて石井氏が残した記録の1つひとつを追体験しようとした七尾さんの覚悟や労力は、並大抵のものではなかったと思います。
沖縄戦に関して言うと、これまでに多くの著作が残され、今も「語り部」と呼ばれる人々が戦争の悲劇を伝え続けています。このこと自体は大変意義のあることですが、戦場で起きていたことやその時の人々の心をとらえるためには、もう少し別の手法があってもよいのではないかと考えました。私は沖縄戦および戦後沖縄に関して3冊の著作を出しましたが、いずれにおいても重視したのが「歩き継ぐ」という手法でした。
本書の上梓までに15年を費やした
『戦場の人事係』でいうと、石井氏に最初にお目にかかってから本書を上梓するまでに15年。その間に沖縄戦当時の彼の足跡を自分の足で確認しました。
彼や仲間の兵士たちがいつ、どのように転戦し、そしてどこでどのように命を落としたのかを、自分なりの体験として消化するためです。そのために、沖縄本島のあちこちにあるガマと呼ばれる真っ暗な自然洞窟に入り、そこでの当事者の思いを追体験しようと試みました。
また、「鉄の暴風」とも呼ばれた戦場を逃げ惑うことがどれほど大変だったかを自分なりに理解するために、沖縄本島を当時の足跡に沿って実際に徒歩で歩いてきました。
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