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「謎のディーゼルエンジン」なんと“旧軍の戦車用”だった! 九州大学の教材から大発見 80年も経歴不明だったワケ

乗りものニュース / 2024年4月19日 16時12分

第61回静岡ホビーショーで展示されるNPO法人「防衛技術博物館を創る会」の九五式軽戦車(布留川 司撮影)。

九州大学で教材として使われていた古いディーゼルエンジンが、このたび静岡県御殿場市で公開されました。これ、実は旧日本軍の戦車用だったとのこと。ただ、関係者は皆そのことを知らなかったとか。なぜ、そうなったのか理由を探ります。

昭和初期に作られた戦車用エンジン 静岡で初の展示

 静岡県御殿場市の自動車会社「カマド」で2024年4月7日、NPO法人「防衛技術博物館を創る会」(以下、NPO法人)が収蔵品の見学会を開催しました。

 今回の目玉は北海道から譲渡され、現在レストアに向けてクラウドファンディングを実施中の「九五式軽戦車改造ブルドーザー」(通称:ハ号ブル)です。しかし、それ以外にも本イベントが初公開となった珍しい逸品がありました。それが旧日本陸軍戦車用のエンジンである、A6120VD型直列6気筒空冷ディーゼルです。

 これは、NPO法人がイベントを開催する1か月ほど前、今年3月に九州大学の内燃機関研究室から譲り受けたもので、旧日本陸軍の九五式軽戦車が搭載していたのと同じ型式のエンジンです。

 A6120VD型ディーゼルが製造されたのは1935年から1942年までの7年間ほど。そのため、このエンジンも、少なくとも80年以上前に作られた戦車用エンジンということになります。しかし、長い年月が経っているにも関わらずエンジンの状態は驚くほど良く、外部から見たところ大きな破損や部品の欠損はありません。

 じつはこのエンジン、九州大学において教材として使われていたものですが、実際に戦場で使われたことはなく、それどころか戦車に搭載されたこともないそうです。しかし、戦車用エンジンでありながらも、教材というイレギュラーな使用方法のお陰で、この個体は令和の現在まで無事に生き延びたといえるでしょう。

戦車用だと長らく認識されなかったワケ

 戦前の戦車用エンジンがこれだけ良い状態で現存しているのは、世界的にも珍しいことだと言えます。このエンジンを搭載した九五式軽戦車は数台が今も現存していますが、オリジナルのA6120VD型エンジンを搭載して可動するのはたったの2台しかありません。

 しかし、実はこのエンジン、その存在はほとんど知られることはなく、NPO法人の関係者も聞いたことのないシロモノだったそうです。一方、保有していた九州大学もこのエンジンの詳細については把握しておらず、「正体不明のエンジン」という曖昧な認識で保管されていたそうです。

 なぜ、そのような状態だったのか、その理由は2つほどあります。

 ひとつはエンジンが大学に納入された時期が昔で、当時を知る職員が現在はいないこと。そして、もうひとつがこのエンジンが本来の設計・生産会社である三菱重工業ではなく、神戸製鋼所で生産されたものだったからです。

 大戦中、兵器は生産数を増やすために、設計した会社と生産した会社が異なるのは当たり前のことでした。このエンジンが搭載されていた九五式軽戦車についても、設計と開発は旧日本陸軍と三菱重工業で行われましたが、生産は三菱重工の一社独占というわけではなく、他の企業に設計図を渡し、積極的にライセンス生産するよう働きかけが行われていたのです。

 そのようなメーカーのなかに神戸製鋼所も含まれていました。その証拠にエンジンの側面には、神戸製鋼所の当時のマークである「S」の文字と菱形の図形が描かれた銘板が付いています。

 神戸製鋼所は、「KOBELCO」の商標・ブランド名で知られる日本の大手鉄鋼メーカーですが、建設機械を始めとして、さまざまな工業製品を製造しており、そのブランドに敬意と愛着を込めて「神鋼(シンコウ)」と呼ばれたりもします。

 このエンジンも大学内では「教材の神鋼ディーゼル」と呼ばれていたそうです。つまり、神鋼というブランドが、このエンジンが持つ本来の戦車用エンジンという、もともとの経歴を上書きして定着してしまったということなのでしょう。

エンジンは展示用に なぜ戦車に搭載しない?

 こうして戦後の荒波を生き長らえたA6120VD型エンジンは、鉄くずやスクラップになることなくNPO法人に譲渡され、本来の戦車エンジンとしての情報とともに一般に公開されることになったのです。

 なお、NPO法人が建設を目指す防衛技術博物館が完成した暁には、九五式軽戦車とともに展示され、エンジンの細部を詳しく知ることが可能な資料として大切にされる模様です。

 エンジンの状態は非常に良く、メンテナンスを行えば可動状態に戻すのは比較的簡単なようですが、NPO法人の小林代表によればその予定は今のところないといいます。

「このエンジンは教材として使われており、実際に発動機として使われることはありませんでした。そういう経緯なら、当団体も同じような用途として展示品として活用する予定です。これと同じエンジンで動く九五式軽戦車を我々は保有していますが、そのエンジンに何かトラブルがあった場合は、このエンジンがドナーとして役立つ可能性もあるかもしれません。つまり、展示品として良好な状態で保存することは、動く九五式軽戦車を数十年後の次の世代に残すという意味もあるのです」

 小林代表とNPO法人「防衛技術博物館を創る会」では、ただ車両を収蔵品として集めるのではなく、それらを可動できる状態で後世に残すことを目標としています。

 これまでも、「くろがね四起」の愛称で知られる国産の四輪駆動車「九五式小型乗用車」をレストアしたほか、可動状態の九五式軽戦車を購入。現在は「九五式軽戦車改造ブルドーザー」の修復プロジェクトを進めており、前述したようにその費用をクラウドファンディングで募っています。

 逆にいえば、このように「裸の状態」で見られる戦車用エンジンというのもまた貴重な展示品に位置付けることができるでしょう。80年前に作られた国産ディーゼルエンジンという点で、これは貴重な技術遺産でもあります。軍用であったということは抜きにして、先人が作り上げた工業製品を1人でも多くの人に見て欲しいと、実物を見て筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は切に思いました。

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