雪崩が発生しやすい条件は? 遭遇したときに命を守る対策
ウェザーニュース / 2024年3月2日 15時20分
春が近づくこの時期は、気温の上昇や降雨などで雪崩(なだれ)が発生しやすいタイミングでもあります。
「平成18年豪雪」と命名された2005~06年冬シーズンには全国で100件の雪崩災害が発生。住民やスキー客、登山者を含む死者・行方不明者は15人に達しています。
雪崩に遭遇しないようにするにはどうすればいいのか、遭遇してしまった場合にはどうすればいいのか。命を守るための3つの対策をまとめました。
雪崩の落下スピードは時速200kmにも!?
日本雪氷学会は雪崩を「斜面上にある雪や氷が肉眼で識別できる速さで崩れ落ちる現象」と定義しています。雪崩はすべり面の違いによって、大きく表層雪崩と全層雪崩という2つのタイプに分けられます。
表層雪崩は、新たに降り積もった新雪部分が、古い積雪の上面を滑り落ちる現象です。気温が下がって雪が大量に降った際に発生しやすく、特に1~2月は警戒が必要です。表層雪崩の流下スピードは、新幹線並みの時速100~200kmとされています。
一方の全層雪崩は、気温の上昇によって積雪と地面との間に雪解け水が流れたり、ザラメ状のもろい雪の層ができたりすることなどにより、古い積雪と新雪を合わせた硬くて重い雪の層全体が地表面を滑り落ちる現象で、暖かくなった春先などに起こりやすいことが特徴です。
全層雪崩の流下スピードは、自動車並みの時速40~80kmとされています。速度差の関係から、表層雪崩のほうが全層雪崩より遠くまで流れる傾向があり、発生点から2km以上先まで到達した例もあります。
雪崩はいつ、どういう時に発生する?
雪崩の発生には、気象や地形、植生などの条件が大きく影響しています。
気象条件では、表層雪崩の場合は急な寒気の襲来で降雪が続き、積雪が急に増えた際に発生の可能性が高まります。
具体的には、0℃以下の気温が続いて吹雪や強風が伴い、特に1m程度以上の古い積雪の上に30cm程度以上の新雪が積もった場合が、表層雪崩の発生しやすい状況とされています。
全層雪崩は気温が上昇する春先やフェーン現象の際、暖気によって積雪が溶けて深さが急に減少した際に発生しやすく、雨が降った後も発生の可能性が高まります。
地形条件では、斜面の勾配が30度以上で発生しやすくなり、55度以上では雪が積もりにくいものの、下の斜面に吹き溜まりができやすくなるので注意が必要です。勾配30度の目安は、スキー場の上級者向けコースの斜度と同じ程度です。
植生条件では、低木や灌木(かんぼく)、土がむき出しの箇所(裸地)や草地などまばらな植生の斜面で雪崩発生の危険が高まります。特にササや草に覆われた斜面は滑りやすいため、裸地より雪崩の危険性が高いとされています。
そのほかにも地震、銃声などの振動が加わった場合や、後述する雪庇(せっぴ)や樹木の冠雪が落ちて積雪量が増えた際にも、雪崩発生の危険性が高まります。
命を守る3つの雪崩対策
(1)前兆を知る
雪崩から命を守るために大切な対策の1番目は、発生の前兆を知ることです。
雪崩の前兆現象として、雪面にクラック(雪割れ)や雪シワ、雪庇が生じていること、斜面をスノーボール(雪玉)がころころ落ちてくることなどが挙げられます。
雪面に亀裂が生じている場合は、積雪が移動しはじめているので、注意してください。積雪層内での雪の移動量が大きい場合に発生することがある雪シワの現象も、見かけたら気をつけましょう。
さらに、注意したい前兆として、雪庇があります。風によって稜線に運ばれた雪片が風下側に付着し続け、庇(ひさし)のように大きく固まったものです。先端部が発達したり気温の上昇で斜面の積雪がせり出したりすると、雪庇が崩落して雪崩を誘発するおそれがあります。
雪崩の前兆の一つであるスノーボールは、雪庇やクラックの一部が崩落してできたものです。
これらの前兆を確認したら、雪に衝撃を加えないように注意して、すぐにその場から離れてください。最寄りの市町村役場や警察署、消防署へすぐに通報することも心がけましょう。
(2)自分が流されたら横に流れの端へ逃げる
雪崩に遭遇して自分が流されるか、流されそうになってしまった場合は、できる限り雪崩の横方向へ逃げてください。雪崩はまっすぐ下方向に流れるので、斜面の左右方向の近い側の端に向かい、岩などの遮蔽物があったら陰に隠れるようにしてください。仲間がいれば巻き込まれないように発生を知らせ、自分の体から荷物を外してください。
(3)雪に埋まってしまったら大声で助けを呼び呼吸を確保
雪に埋まってしまったら、埋まった場所を他の人に見つけてもらうことが最も大切ですので、大声で助けを呼んでください。また、雪が止まりそうになったタイミングで、呼吸が確保できるよう、手で口の回りを覆って空間を作ってください。さらに雪の中を泳ぐようにして浮上するように努めてください。他の人が流されている場面に遭遇したら
他の人が雪崩に巻き込まれた状況に遭遇したら、流されている人の様子を見続けて、巻き込まれた地点(遭難点)や姿が見えなくなった地点(消失点)を確認してください。
雪崩が止まったら見張りを置いたうえで、遭難点と消失点にポールや木などを立てて目印としてください。救助活動は無理をせず、関係機関への通報を優先してください。
日本の国土の半分以上を占める豪雪地帯には約2000万人が暮らし、集落を対象とした「雪崩の危険箇所」も2万ヵ所が指定されています。
在住者はもちろん旅行などで豪雪地帯を訪れる際も、市町村が作成、配布するハザードマップによって地域の危険箇所を把握し、「なだれ注意報」などの気象情報が出ていないかをチェックすることも心がけましょう。
参考資料
新潟県土木部砂防課「雪崩対応安全ガイドブック」、同「なだれ災害から身をまもる」、政府広報オンライン「最大で時速200kmものスピードに! 雪崩(なだれ)から身を守るために」、同「冬の驚愕!『雪崩災害』から身を守る」、国土交通省「雪崩防災」
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