【倉本聰:富良野風話】朗読國会
財界オンライン / 2021年11月5日 15時0分
またも解散総選挙である。
総選挙にいくら金がかかるのか知らないが、いずれにしても我々の血税から支払われるのだろう。それが意味のあるものなら仕方ないが、政治家たちの都合や思いつきでなされるのなら、こんな腹立たしいことはない。
解散前夜の記者会見で二階俊博氏が記者団を睨みつけて言った。「愚問じゃないかね。こういうプロの世界では──」。プロの世界という言葉が僕にはひどくひっかかった。政治はプロのものなのか。政治はあくまで庶民という、素人のためのものなのではないのか。永田町ではどんなに偉いのか知らないが、新聞記者という我々素人を代表する声に、愚問とかプロとか上から目線で高圧的に言う、あの無礼には腹が立つ。
解散を宣言する議長の声に、与党も野党も全員が一斉に、バンザイを叫ぶ、あのヘンな習慣も全く腹が立つ。万歳とは、百科全書を引けば「天子や国家の長久の繁栄を祝して唱える言葉」であり、「心改めてやり直そう」とか「心機一転がんばるぞ」とか、そういう意味合いの言葉ではない。ああいう場面でバンザイを唱えるのは意味が判らないし腹が立つ。ああオレたちの血税がまた飛んで行く。バンザイバンザイと一体誰が思えるのか。
更に想像して腹が立つのは、こうやって面子が多少違っても、恐らくきっといつもと変わらぬ”朗読政治”がまた始まるのだろうな、という、これは立腹より絶望感である。
あらかじめ予定された野党の質問に、あらかじめ官僚の書いた模範的解答が、まちがわぬように只、朗読される。ここには相手の質問を反芻する時間もなければ、考えて答える思考の様子も見られない。こういう問答は討論とは言わない。
ドラマの世界で役者によく言うのは、ぶつけられたセリフをよく胸に入れろ、そして考えろ。その考える表情と時間こそが、君の演技であり君の仕事だ、ということである。一流の役者はここをこそ演じている。こういう質問だから答えはこう。それではセ
リフのやりとりにはならない。
優れた演出家はしゃべっている役者を撮らない。聞いている役者の表情をこそ撮る。そこにこそ役者のインナーボイス、真実の声が見えるからである。
朗読のやりとりは面白くもおかしくもない。そこにあるのは失言への期待、読みちがえ、トチリの揚げ足とりのみである。
日本では中学・高校で、討論(ディベート)の授業が殆どない。弁論はあっても、それを聴くことの基礎訓練がない。只しゃべる。故に時間だけが長くなる。聞くものはどんどん退屈する。
イグ・ノーベル賞の授賞式では、スピーチが永くなると小さな可愛い幼女が袖から出てきて、タイムオーバーの鐘を鳴らす。日本の国会もあれをやれば良いと思う。居眠りも妨げるし、笑いもさそえる。
【倉本聰:富良野風話】いじめっこ天國
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