【倉本聰:富良野風話】クソ考
財界オンライン / 2022年1月14日 15時0分
2022年の年頭を飾るのに甚だ相応しくないテーマであるかもしれないが、このところクソという重大かつ身近な物質について真剣にはまってしまっている。発火点は、エネルギー資源の枯渇という大問題である。
日本だけでも1日2万4800トンという莫大な量が産み出されるクソ。〝喰って、出す〟という循環社会の大元の位置に存在するこの物質が、単なる邪魔者として廃棄され、資源という見方を殆んどされていない。その理不尽に対する疑問からである。かつて小生は『北の国から』というドラマの中で200万人に及ぶ富良野の観光客が確実に落として行くものは何か。それは金でなくクソではないかという疑問からクソ発電を夢見る人物を登場させたことがあったが、テレビ視聴者は愚かにもこの重大な問題提起に誰も見向いてくれなかった。
しかし世界では、かのビル・ゲイツが開発途上国の不衛生による死者数を減らすために2億ドル(210億円)を投じて汚水処理装置「オムニプロセッサー」を開発し、そこからできた水をゴクゴクと飲み干して見せている。また、北海道・鹿追町では、家畜の糞から町内に2つのバイオガスプラントを作り、町内の7割をカバーする617万キロワットの発電に成功している。
そもそもわが国の江戸時代にあっては、糞尿は貴重な収入源であり、たとえば長屋の大家などは店子の家賃より彼らの落とす糞尿を、クソ問屋を通して主たる収入源とした。したがって、当時はクソにもランクがあり、栄養豊富な大名旗本の家から出る〝勤
番〟。一般町民から出る〝町肥〟。江戸の四つ辻の共同便所から汲み取った〝辻肥〟。尿分の多い〝たれこみ〟。牢屋など栄養価の低いものから出る〝下等品〟と、取引値に数倍の差があったらしい。
これらが汲み取り式容器に溜められ、農民がそれを買い、ある場合には栃木・茨城・埼玉など関東上流から荒川を通って江戸に運ばれる農産物の帰り舟(同じ舟が使われたかどうかは知らないが)として農産地へと送られたのである。
このシステムが崩壊したのは大正7年。水洗トイレが現われ始め、汲み取り事情が逆転する。この年までは農民や尿糞業者が作物や金銭と引き換えに汲み取りをしていたのに、この年以来、事情が逆転し、住民が金銭を支払って汲み取りをしてもらうようになるのである。鎌倉時代から長く健全に機能していた汲み取りシステムにピリオドが打たれた。つまり資源の1つだったクソが、単なる廃棄物に転落してしまうのである。
循環社会の原点ともいえるクソが、循環の輪から外されてしまった今の社会はどこかまちがっているように思う。僕は科学には全く音痴の徒であるが、科学者・企業家が宇宙に行くなんてことを考える前に、この毎日産み出される大資源・クソをエネルギーに変えることを真剣に考えてくれたなら、随分と社会に益することになるのではあるまいか。
【倉本聰:富良野風話】ガラパゴス・シニア
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