特集2017年2月10日更新

代表に聞く、NEET株式会社の今

2月10日は「ニートの日」。これにちなんで2013年に「ニートだけで運営する会社」として設立され、大きな話題を呼んだ「NEET株式会社」をご紹介します。設立から3年が経ったNEET株式会社の現状はどうなっているのでしょうか。会社の事業内容、そして設立からの苦闘、体制の見直しなど、ここまでの道のりを紹介します(取材協力:NEET株式会社代表・若新雄純氏)。

「ニートだけで運営する会社」NEET株式会社

NEET株式会社の沿革

2013年、160名のニートが集い会社発足

2013年2月、人や組織のコミュニケーション研究をしていた若新雄純氏が中心となり、設立準備チームを発足。 同年11月、約160名のニート状態の若者が取締役に就任し、「NEET株式会社」が発足する。

苦闘、暴露、衝突…苦難の連続だった2014年

2014年、注目が集まったことで多くの業務依頼がくるが、なかなかうまくいかず苦労する。 内情をネット上に暴露するメンバーが現れたり、会社の運営方針や各々の価値観をめぐってメンバー同士の衝突が激化したりもした。 一方で、2015年には取締役メンバー同士で2組が結婚するなど、人間関係を育む側面もあった。

2016年、根本的な体制の見直しを行う

2016年、「会社組織の裏方も全て自分たちで運営する」というシステムを見直す。事業や活動に専念できる体制の方針へ変更した。 2017年、春に新規メンバーを募集予定。(詳細は http://gather.neet.co.jp/ まで)

主な事業内容

ニートが1時間1,000円で遊び相手をする「レンタルニート事業」、ニートがブラック企業と戦うゲームなどを制作する「デジタルゲーム事業」、ニートがより良いニート生活を送るために、定期的に集まり、生活の悩みや将来のことなどを話し合い、仲間をつくっていく「ニー活事業」、心理カウンセラーの資格をもったメンバーが、ニートなりの視点で心理サポートやコンテンツ開発を行う「心理学事業」、ニートが独自の思考発信を行う「ニート哲学事業」、ニートが共同生活を行い、生活の様子を配信、体験生活の受入なども行う「シェアハウス事業」、塾講師経験のある者がシェアハウスで生活し、24時間いつでも受講生を受けいれる(もちろん、寝ている場合もある)「24時間学習塾」など。

代表に聞く、NEET株式会社の今

― 沿革を見ると昨年、会社の運営システムをかなり抜本的に改革していますね。これはどういった意図ですか。

(若新)これまでは全員が平等に株と議決権を持っていて、事業や活動だけでなく会社の運営方針や総務に関することまで、全て自分たちで話し合って決めていました。ただ、価値観や人間性の違いなどもあってひとつにまとまらず、全員が議決権を持って全て話し合うというシステムは、逆に組織を停滞させることになってしまっていました。 そこで、社内に持株会を発足して、議決権の無い株をメンバーが毎年3,000円以上買い続けることで会社に資金をつくり、会社の事務的な運営を外注にしました。裏方のことはそちらに任せることで、自分たちは事業活動や企画に専念できるような体制の方針にしました。

― いろいろな事業を展開されていますが、「ニートだから成功出来た事例」なんてありますか。

(若新)「レンタルニート事業」は特徴的ですね。テレビ・新聞・雑誌など多数のメディアで取り上げられましたが、事業部長があえて「クオリティの低さ」を重視することで事業が継続しています。 1時間1,000円であくまで「一緒に遊ぶ」ことを重視し、過剰な期待を受けるような仕事は絶対に受けず、「遊び」という時間の中から新しい出会いや発展が生まれるように工夫されています。 依頼者にできもしないことを期待させず、あえて期待値を下げることで自分たちが継続的に活躍できる機会を作り出しました。

― 2015年には取締役同士で2組も結婚されているのですね。

(若新)結婚した2組のカップルのうちの1組は、お互いに障害を持っていまして、それまでは普通に就職できる状態ではありませんでした。一般的な障害者支援の考え方であれば、まずはそのような状態を克服し、仕事ができるようになって収入を作ってから、次に結婚などを考えるというのが普通です。ですがこのカップルは、まず先に「結婚生活」を考えたんです。当然両親は反対したようですが、夫は二人での生活を成り立たせるために在宅でできるIT系の仕事を始め、家計を支えることができるようになりました。「まず仕事ありき」ではなく、仕事をせざるを得ない状態にして、そのために働こうとした姿が非常に現実的であり、当事者だからこそ模索できたものだったなと思います。

― それもまたひとつの「成功事例」かもしれないですね。

(若新)そうですね。また「雇用される」という立場から一度解放されたことで、小さくてもいいから自分で仕事を作ってみるという感覚を覚えて、独立していったメンバーもいます。

個性的なニート紹介

― メンバーがニートだけとなると、ニートの中でも特に個性的という方もいたのではないですか。

(若新)基本的に、社会の大枠からはみ出した人たちなので、みんな個性的ではありますが…。既に退任したメンバーも含めると、
・情報システムのことに詳しすぎるニート
・有名大学の理系大学院で博士課程まで行ったが、ニートになりその後ヘリパイロットに
・他人の不正を許せない正義感の強すぎるニート
・いつも会議に参加するが一言も発しない無口ニート
・図書館に通いまくっていて雑学がすごいニート
・ずっとヒモ生活を続けてきた元保育士ニート
・合唱団に入っていて歌がうますぎるニート
といった人たちがいました。

― ニートと一口にいっても、いろいろな方がいるのですね。個人的にはパイロットになったニートが気になります…。本日はありがとうございました。

会社概要

設立日2013年11月21日
本店所在地東京都千代田区
メンバー取締役約80名(平均年齢30歳、男女比9:1)
年商非公開
事業目的一切の事業
公式情報 NEET株式会社 Facebook Twitter 公式チャンネル

ニートの現状

NEET株式会社のメンバーのように苦難に揉まれながらも、着実に歩みを見せる人たちがいる一方で、ニートという言葉が生まれて以来、世間のニートの現状はどう変わっているのでしょうか。あらためて振り返ってみます。

ニート(若年無業者)の数

2001年からニート(若年無業者)の数は増減はあるものの、緩やかに減っているように見えます。しかしこれは定義上の問題で、実際に15歳~34歳以下の人口が毎年減っていることを加味すると、割合としては2.1%となっており2001年当初より増えています。

内閣府の資料によると平成26年の、15~34歳の若年無業者は56万人、15~34歳人口に占める割合は2.1%に至ります。

ニートの定義

ニート(NEET)とは英語で「就業、就学、職業訓練中にない人」の意味となる「Not in Employment, Education or Training」の頭文字を取ったもの。
日本でこのような呼称で呼ばれるようになって久しいですが、ニートの定義については、内閣府と厚生労働省とで定義の中に若干の差異があるようです。

・内閣府の定義
(1)高校や大学などの学校及び予備校・専修学校などに通学しておらず、(2)配偶者のいない独身者であり、(3)ふだん収入を伴う仕事をしていない 15 歳以上 34 歳以下の個人
・厚生労働省の定義
総務省が定義する「若年無業者(15~34歳で、非労働力人口のうち家事も通学もしていない人)」をニートとして定義している。

ちなみに「ひきこもり」とは厳密に定義が分けられているようです。
ひきこもり…ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事の時だけ外出する

今時のニート事情

現在もなかなか減らないニートの人口。ニートを卒業できずにいる人たち、あえてニートの生活を選択している人たちなど様々ですが、ここ数年はどのような実態があるのでしょうか。

高齢化するニート

ニートの高齢化が進んでいます。30代後半を越えても親からお小遣いをもらい、自宅に居座り続ける人が増えています。本人が年齢を重ねているということは当然、親も高齢になり年金生活を送っているケースも多いのですが、その年金を趣味や遊びなどに使う「年金パラサイト」と呼ばれるニートも増えているようです。

厚生労働省の調べによりますと13年度ではなんと44万人ものニート(非労働者)がいるとのこと。具体的な生活は毎月3万円もの小遣いを親からもらい、パチンコやゲームなどに費やすのだという。其れに関して父親も母親も何も言わないという。
長男は今年35歳になるが、これまで一度も就職したことがない。20代の頃はコンビニなどでアルバイトをしていたこともあった。しかし、どれも長続きせず、この数年は「オレは仕事に向いていない」と部屋に閉じ籠もり、ネットやゲームをしてばかりいる。

女性の場合は、一度は結婚したものの離婚して実家に戻り、そのまま社会復帰せずにニート生活を送るようになってしまう人もいるようです。

娘は一度も就職しないまま家事手伝いになった。30歳でようやく結婚したが、『夫の給料が安くて、実家生活ほどの贅沢ができない』といって1年で離婚してしまった。
 その後は働きに出るわけでも、婚活をするわけでもなく、家で韓流ドラマを見てゴロゴロしている。娘はもう35歳。このまま再婚もせずに一生親元にいるのかと思うと、将来が不安でたまらなくなる

高学歴ニート

大学やそれ以上の教育を受けながら、自分の進むべき道を見つけることができず、ニート生活に突入するニートも増えています。

経済協力開発機構(OECD)が2012年に実施した「国際成人力調査」から、ある数字が最近話題になっています。それは、24カ国のニートに関する調査の部分で、日本のニートの学力が「読解力」と「数的思考力」の2分野で堂々の1位だったというものです。

ニートが集まるシェアハウス

「働かなくても生きていく」。怠惰な性格や社会に適応できずニートになるわけではなく、ニート生活を前向きなものとして捉える人たちによるシェアハウスが存在します。そこでは働くことは二の次、思う存分に好きなことをして過ごす新しいニート生活のかたちが存在します。

「ギークハウスプロジェクト」とは

働かなくても生きていく手段として提唱したのが「ギークハウスプロジェクト」というシェアハウス。ギークとはパソコンやネットが好きな人という意味
人見知りだけど、一人で住むのは寂しい。家賃をまるごと払うのも大変  自分と似たような「ギーク」を集め、ギークハウスは 08年、南町田の3LDKでスタートした。
 同世代の男子が4人、互いにパソコンに向かってプログラミングをしたり、マンガを読んだりして過ごす「ダラダラしたシェアハウス」。

この生活がネットで話題となり、海外や男女共同、マンションタイプなどの広がりを見せています。

妻に生活を依存する「ニート婚」

稼ぎはないけれども“家庭での生活力”がある夫を選ぶ女性が増えている「ニート婚」というものもあります。夫からすればニート生活を継続したまま結婚生活が送れる時代なのですね…。

ニート婚の特徴は、夫が競争嫌いで、家の中での主導権を握らないことだ。だから2人で共同生活をするには、ストレスのない平穏な関係が築けるという。

活躍の場を見つけた元ニートの成功例

前述のNEET株式会社のように、元ニートからの一発逆転で活躍している人たちがいます。自らの起業や、自宅にいる時間を事業やFXに投資して成功するなど、その成功体験は様々ですが、どれもニート生活を送った期間があってこその成功例が語られています。

思う存分睡眠時間を確保し、収入も得られるように!

必ずしも会社勤めをして安定した収入を得る生活を送っているからといって、本人にとって本当に幸せで健康的な生活かどうかは分かりません。「睡眠時間の確保」という自分の生活を守りつつ、収入も得られるようになった元ニートの実例。

「昔からネットが好きで、趣味の延長でサイトを作っていたのですが、いくつかのサイトで少しずつお金が稼げるようになってきたんですね。そこで、ネットがあれば暮らしていくには困らなさそうだし、孤独にもならないだろう、というのがなんとなく見えたので、会社を辞めました。…いや、こういうとすごく計算していたように思われそうですが、『まあ、なんとかなるだろう』という楽観的な気持ちでしたね」

ニート生活にやるべきことを見つめ直した

やりたいことが見つからず就職で失敗するも、焦る気持ちで過ごしたニート時代が逆転の転機に。

「昨日まで隣で勉強していた同級生がmixiで『入社式なう』とか『同期飲みしてる』とか書いていて。一方の私は、パジャマのまま家でPCをいじるだけ…。焦って、今の自分の持っているものを書き出したんです。22歳、女性、健康とか。少ししかないけど、混ぜ合わせたら何かできるはずと思い、企画書を書きまくりました」

ニートから20社以上の創業者に

いまや大学の研究機関の所長を務め、教壇にも立つ元ニートの方です。20社以上の創業者になったその秘訣は、自分の感情をコントロールする扱い方にあるようです。

「何かを『めんどくさいなぁ』と思う感覚は100%正しい。あなたがそう思うことの9割は、捨てても何の問題もありません。そして、本当に大事なこと、自分を成長させ、よい方向に導くヒントも、残り1割の『めんどくさい』にあります」

FXで大儲け

ニート生活は十分な時間を投資できる分、FXで成功を収めた例もあります。

「かーちゃん就職するから100万円くれよ」。すると母親は「頑張るXちゃんが好き」と言って快く100万円をくれたという。彼は当時のことを「そしたらかーちゃん100万円現金でもってきて焦った(笑)」と語っている。
しかしそのお金で就職するというのは真っ赤な嘘で、インターネット掲示板『2ちゃんねる』のFX関連のスレッド(掲示板)を読んでてFXがしたくなり、その資金が欲しかったために母親に嘘をついて100万円をゲットしたのだとか。
Xさんにとって、それこそが天職だった。ガンガンとFXで儲けていき、1年間で100万円が1000万円になったというから驚きだ。

ニート生活を送るようになった事情は人によって様々です。NEET株式会社のように前向きなニート活動を送る人々もいるように、社会におけるニートの存在も多様化してきているように思われます。しかし若年層におけるニートの割合が変わっていないこと、そして望まずにそうした生活を送る家庭があることも事実。必ず転機があると信じて、ニートである本人自身もその家族も、自立を目指して歩き進んでいただきたいものです。