特集2017年8月29日更新

ミサイルめぐり緊迫「北朝鮮vsアメリカ」舌戦

繰り返されるミサイル発射で緊張が続いている北朝鮮情勢は、7月4日に決行された大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を契機として一気に緊迫感が増しています。グアムへの攻撃計画、新型ミサイル開発など、強硬な態度を取り続ける北朝鮮の行動および声明、それに対するアメリカの反応をまとめてみました。

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性能を上げ続ける北朝鮮のミサイル

8月29日に今年で14回目の発射。日本上空を通過

北朝鮮は、金日成主席生誕105周年、朝鮮人民軍創建85周年といった記念日が連続した4月を中心にミサイル発射を繰り返し、2月12日から8月29日まで、今年はすでに計14回のミサイル発射を行っています。韓国軍によると、29日に発射された弾道ミサイルは日本上空を通過し北海道襟裳岬の東方約1180kmに落下。飛行距離は2700kmとのことです。

2017年に北朝鮮が発射したミサイル

2月12日 弾道ミサイル1発。日本海に落下
3月6日 弾道ミサイル4発。3発が日本のEEZ内に落下
3月22日 弾道ミサイル1発。失敗(発射直後に爆発)
4月5日 弾道ミサイル1発。失敗(北朝鮮沖に落下か)
4月16日 弾道ミサイル1発。失敗(発射直後に爆発)
4月29日 弾道ミサイル1発。失敗(北朝鮮内陸部に落下か)
5月14日 弾道ミサイル1発。日本のEEZ外に落下
5月21日 弾道ミサイル1発。日本のEEZ外に落下
5月29日 弾道ミサイル1発。日本のEEZ内に落下
6月8日 地対艦ミサイル数発。日本海上の標的に命中か
7月4日 弾道ミサイル1発。日本のEEZ内に落下
7月28日 弾道ミサイル1発。日本のEEZ内に落下
8月26日 短距離弾道ミサイル3発。2発が日本海に落下
8月29日 弾道ミサイル1発。北海道沖の太平洋に落下。

性能を上げ脅威を増す北のミサイル

5月14日のミサイル発射で緊迫感増す

毎週のように繰り返された4月のミサイル発射連発に続き、大きく流れが変わったのは5月14日の弾道ミサイル発射です。
このミサイルは高度が2000キロ超に達し、30分程度と長時間にわたり飛行。あえて高高度に打ち上げることで距離を抑えた可能性があり、実際の射程距離は4000キロを超える恐れがあるとされました。
これらの状況から、新型の弾道ミサイル、さらには大陸間弾道ミサイル(ICBM)の可能性まで指摘され、それまで以上に緊迫感が増したのです。

アメリカにも衝撃

5月14日のミサイル発射は、「米領のグアムが射程に入る」「輸送が容易な固体燃料が使われた可能性がある」といった点で、アメリカの政府関係者にも衝撃をもって受け止められたといいます。
以下は発射直後に配信されてきた記事です。

固体燃料を積んだミサイルを偽装コンテナ船で、ワシントンを射程に捉える場所まで運べば、新たな脅威となる。アメリカはどう出るのか。
「北朝鮮はミサイル発射で何とかアメリカを交渉の場に引っ張り出したいのでしょうが、トランプ政権は北朝鮮が越えてはいけない“レッドライン”を、米国本土への攻撃が可能な武力の保持と定めている。今回の一件はこれを越えた可能性がある」

続くICBM発射で「北ミサイル」の脅威がアメリカ本土へ

7月4日に発射されたミサイルは高度2500キロ超で約40分間飛翔、7月29日は高度3500キロ超で約45分間飛翔と、発射のたびに高度と飛翔時間を伸ばし、性能をアップさせていることをうかがわせています。
また、この2発ついて北朝鮮は「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」と主張し、アメリカの国防総省も「ICBMである」と分析。アメリカ政府もICBMが発射されたという認識を示したことで、「北のミサイル問題」が新たな局面に突入しました。

「火星14」発射(7月4日)以降の米朝の動き

ここからは、北朝鮮によるミサイルの脅威がアメリカ本土へ及ぶようになったICBM「火星14」発射成功以降における北朝鮮とアメリカの動き、および金正恩朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ大統領の声明について、時系列に沿って見ていきましょう(時差の問題などで多少前後する場合があります)。

7月4日、北朝鮮「ICBM発射に成功」と主張

北朝鮮は7月4日のミサイル発射後、核実験の際などの重要な局面で用いる「特別重大報道」を行い、「ICBMの発射実験に成功した」と伝えました。

北朝鮮は「大陸間弾道ミサイル『火星14号』の発射実験に初めて成功した」と表明。「共和国の歴史で特大の事件」とし、「これでいかなる国にも着弾できる。防衛も可能になった」と発表した。

トランプ氏「この若造は人生で他にすることがないのか?」

トランプ氏は7月4日の発射実験1時間半後に、
「この若造は人生で他にすることはないのか。韓国と日本が、この状況にそんなに長く我慢できるとは思えない。おそらく中国は北朝鮮に強い働きかけをして、このナンセンスな出来事を、これっきりにするだろう」
とツイート。中国に改めて行動を求めた。

金正恩氏「独立記念日への“贈り物”」

朝鮮中央通信は翌5日に、このICBM発射がアメリカの独立記念日(7月4日)に向けた「贈り物」であるとの金正恩氏の談話を公開しています。

アメリカの独立記念日である7月4日にICBMを発射したことについて、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は「非常に絶妙なタイミングで、傲慢なアメリカの顔を殴りつける決断をした」「独立記念日の贈り物が気にくわないだろうが、今後も大小の贈り物たちを頻繁に送り続けてやろう」などと語ったという。

7月25日、「侵略者を滅亡の墓に」北朝鮮が対決姿勢を強調

朝鮮戦争の休戦協定締結の日であり、北朝鮮では「戦勝記念日」とされている7月27日を前に、金正恩氏の新たな言葉が伝えられました。

北朝鮮では朝鮮人民軍の大会が2年ぶりに開かれ、「敵がわが国を相手に無謀な挑発を再び行えば、われわれの武力は侵略者を滅亡の墓に突き落とす」とする金委員長の発言を世界的にアナウンスし、アメリカとの対決姿勢を重ねて強調しました。

7月28日深夜、「火星14」2回目の試射に成功

金正恩氏「米本土の全域が射程圏内」

北朝鮮は7月28日深夜に弾道ミサイル「火星14」を発射。翌29日、朝鮮中央通信は発射実験に成功と発表し、金正恩氏が「米本土全域が射程に入った」と述べたと伝えました。

金正恩氏はこうした結果を受け、「任意の地域と場所で任意の時間に大陸間弾道ロケットを奇襲発射できる能力が誇示され、米本土全域がわれわれの射程圏内にあるということがはっきり立証された」と述べたという。

トランプ氏「米国と同盟国の安全ために全ての必要な措置を講じる」

トランプ米大統領は「こうした実験や武器を通じて世界に脅威をもたらすことで、北朝鮮は一段と孤立し、経済を弱体化させ、国民の困窮を招いている」とする声明を発表、「米政府は米国の安全保障と地域の同盟国の防衛のために全ての必要な措置を講じる」と言明した。

トランプ氏「中国には非常に失望した」

トランプ大統領はツイッターに「中国には非常に失望した」、「ただ対話をするだけで北朝鮮に対して何もしていない」などと中国の姿勢を非難し、「これ以上この状況を許容することはできない。中国はこの問題を簡単に解決できるのに」と主張した。

国連大使「話し合いの時間は終わった」

翌30日にはヘイリー国連大使も、中国の北朝鮮への圧力が十分でないとして、「中国は重要な措置に踏み切るかどうかを決断すべきだ。話し合いの時間は終わった」と声明を発表している。

トランプ氏、「北朝鮮との戦争」に言及か

「戦争になったとしても、こちらでは死者は出ない」発言も話題に

8月1日、トランプ氏が「北朝鮮との戦争」に言及したとグラム上院議員が明らかにし、「こちらでは死者は出ないので構わない」といった発言内容も話題となりました。

トランプは、遂に「北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)による米国攻撃を目指し続けるのであれば、北朝鮮と戦争になる」と述べたという。8月1日に、米上院議員のリンゼー・グラム氏が、「トランプとの会話」をNBCテレビの報道番組で明らかにした。それによればトランプは「戦争になったとしても、現地で起きる。何千人死んでもこちらでは死者は出ない(ので構わない)」という主旨のことを言ったとのこと。

8月8日、トランプ氏「炎と怒りに直面」と北朝鮮に警告

「世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒り」

トランプ米大統領は8日、北朝鮮が米国をこれ以上脅かせば「世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面することになる」とし、同国をけん制した。
トランプ大統領は記者団に対し「米国をこれ以上脅かさないようにすることが、北朝鮮にとり最善の策だ」と語った。

「米国の核兵器はかつてなく強力。この力を使わずに済むことを望む」

翌9日、トランプ氏は前日の「炎と怒り」発言を補足する形でツイッターに投稿。

トランプ大統領はツイッターへの投稿で「大統領として私が最初に指示したことは、核兵器の刷新と近代化だった。今ではかつてないほどまでに強力になっている」と指摘。「この威力を使わずに済むことを望むが、米国が世界で最も強い国でなくなる時期は来ない」とした。

8月9日、北朝鮮がグアムへのミサイル攻撃を「慎重に検討」

攻撃計画が「複数回にわたり連続的に実行される」

北朝鮮国営の朝鮮中央通信社(KCNA)は9日、同国が米領グアムへのミサイル攻撃を「慎重に検討」していると伝えた。KCNAによると、人民軍の報道官は、金正恩朝鮮労働党委員長が命令を下せば直ちに攻撃計画が「複数回にわたり連続的に実行される」と述べた。

「島根、広島、高知の上空を通過する」

翌10日には攻撃計画の詳しい内容が判明。グアムに向かうミサイルは「日本の島根県、広島県、高知県の上空を通過する」ことが明かされ、日本にも衝撃が走りました。

朝鮮人民軍の金絡謙戦略軍司令官は「朝鮮人民軍が発射する『火星12』は日本の島根県、広島県、高知県の上空を通過する」と述べた。

トランプ氏の「炎と怒り」発言を一蹴

朝鮮中央通信(KCNA)はグアムへのミサイル発射計画を伝える中で、トランプ氏の警告を一蹴しています。

KCNAは、トランプ米大統領が8日、北朝鮮がこれ以上米国を脅かせば「世界がかつて見たことのないような炎と怒りに直面する」と発言したことは「全く無意味」として、警告を一蹴。

8月10日、トランプ氏「誰も見たことのないような事態が北朝鮮で起きる」

「炎と怒り」の警告は「厳しさが足りなかった」

グアムに向けたミサイル発射計画を朝鮮中央通信が伝えたことに対し、トランプ氏が改めて発言しました。

大統領はこの日、休暇で滞在中のニュージャージー州で記者団に対して「炎と怒り」発言について「厳しさが足りなかったかもしれない」と述べた。
さらに「北朝鮮がグアムに対して何かすれば、誰も見たことのないような事態が北朝鮮で起きるだろう」と警告した。

8月11日、トランプ氏「軍事的解決の準備完了」

北朝鮮の「トランプ氏は核戦争に追い込んでいる」声明を受けて投稿

この日は北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)が「トランプ米大統領は朝鮮半島を核戦争の間際に追い込んでいる」とする声明を発表。これを受け、トランプ氏は「北朝鮮が浅はかな行動をとるなら、(米国の)軍事解決に向けた準備は完全に整っている」とし、北朝鮮の指導者、金正恩朝鮮労働党委員長が「別の道を模索するよう願っている」とツイートした。

「何らかの行動を起こせば、心底反省することになる」

このツイートのあと、トランプ氏は次のようにも述べています。

「北朝鮮の金委員長が再度脅しをかけたり、米領グアムやその他の米国の領土、および米国の同盟国を巡り何らかの行動を起こせば、直ちに心底、反省することになる」と警告した。

8月12日、北の機関紙「ヒステリックな発作」と米国を嘲笑

米国本土への「最後攻撃命令を待っている」とも

北朝鮮の内閣機関紙・民主朝鮮は12日、米国本土への「最後攻撃命令を待っている」とする署名入りの論評を掲載した。
論評は、米国が「核戦略資産を動員した朝鮮半島への大々的な武力投入と北侵核戦争狂気で地域情勢を極度に激化させている」としながら、「われわれの発展権と生存権を抹殺するための反共和国制裁劇に熱中している」と指摘した。
つづけて、「これは四面八方に活路が強く塞がって絶望感に包まれた連中の必死の身もだえ、ヒステリックな発作である」と嘲笑した。

8月14日、米国防長官「ミサイル攻撃なら直ちに戦争に発展」

マティス米国防長官は14日、北朝鮮が米国をミサイル攻撃すれば直ちに戦争に発展する恐れがあると述べた。
同長官は記者団に対し「北朝鮮が米国に向け(ミサイルを)発射すれば、直ちに戦争に発展する」と警告。

この頃には「緊迫、やや後退」を伝える記事も

トランプ氏と北朝鮮の“舌戦”が加熱する中で、アメリカ当局者や北朝鮮周辺国関係者らの「戦争が起きるリスク」に対する発言は語調が弱まってきていることを伝える記事も来ていました。

米当局者も北朝鮮に対する語調を和らげている。マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)は13日、米ABCテレビのインタビューで「1週間前と比べ戦争が始まる危険性が高まったとは思わない。10年前と比べれば高まっている」と述べた。
韓国の徐柱錫副・国防相は13日、韓国のテレビで「韓国も米国も北朝鮮がミサイルの大気圏再突入の技術を完成させたとは思っていない」と述べた。

同日、金正恩氏「アメリカの行動を見守る」

グアムへのミサイル発射を保留

金正恩氏は14日、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)戦略軍司令部を視察。朝鮮中央通信は、同氏の発言について次のように伝えている。
「米帝の軍事的対決妄動は我が手で首にわなをかけるようになってしまったと述べ、悲惨な運命の分秒を争うつらい時間を送っている愚かで間抜けなヤンキーの行動をもう少し見守る」
少なくとも今は発射しないということである。

アメリカ側の姿勢の変化を受けての判断か

現地時間14日付の米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」に、マティス国防長官とティラーソン国務長官は、連名で寄稿した。その中で、北朝鮮が攻撃に出れば「報復」は免れえない、と警告しつつ、核実験やミサイル発射などをやめれば、米国には交渉のテーブルに着く用意がある、としたのだ。
(中略)
海外メディアはこうした動きを受けて、米側が北朝鮮への発言のトーンを「弱めた」との見方を伝えており、金氏の「もう少し見守る」発言は、こうした米側の姿勢を受けてのものとみられる。

8月16日、トランプ氏「正恩氏は賢明な判断を下した」と評価

金正恩氏がグアム周辺へのミサイル発射計画を一時保留すると表明したことに対し、トランプ氏はツイッターで「賢明な判断を下した」と評価しました。

トランプ大統領はツイッターに「金正恩委員長は非常に賢明で、理にかなった判断を下した」とし、「別の選択をしていれば、壊滅的な結果をもたらしていたし、到底容認できなかった」と投稿した。

対話実現には計画保留だけでは「不十分」の声も

国務省のヘザー・ナウアート報道官は、北朝鮮がグアムへのミサイル発射を遅らせる可能性を示唆したことだけでは十分でなく、「朝鮮半島の非核化を進める意志」を示すことが必要だと主張。「北朝鮮にはもっと多くが求められる」とし、「米国との交渉のテーブルに着くには、何をすべきか知っているはずだ」と述べた。

8月21日、米韓合同演習始まる…グアム再び緊迫

北の機関紙は「火に油を注ぐ」と非難

正恩氏の「見守る」発言とトランプ氏の「賢明な判断」発言で一旦緊張が緩和されたように見えましたが、21日からはアメリカと韓国の定例合同軍事演習がスタート。北朝鮮はこれに反発を示していて、いまだに緊張状態が続いています。

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞(電子版)は20日、論評の中で米韓軍事演習は「火に油を注ぐように事態を悪化させることになるだろう」と非難した。

「情勢はますます、より険悪な境地へ」

21日から米韓合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」が実施されていることについて、「情勢はますます、より険悪な境地へ突っ走っている」とし、「これを防げる方法はただ一つ、米国の軍事的妄動を絶対的な力で治めることだけである」と主張した。

8月22日、トランプ氏「正恩氏は我々に敬意を払い始めた」

米朝関係の進展示唆か

トランプ氏は22日の演説で、北朝鮮との関係改善の可能性について慎重ながらも楽観的な見通しを示しました。

「正恩氏はわれわれに敬意を払い始めている。多分、何か前向きなことが起きるかもしれない」
トランプ氏は22日、アリゾナ州フェニックスでの演説で、こう語った。

国務長官らも一定の評価

22日から24日にかけて、ティラーソン国務長官やナウアート報道官など、トランプ政権からは北朝鮮の対応を評価する発言が相次いでいます。 

国務省のナウアート報道官は24日、「北朝鮮が3週間以上もミサイルを発射していないのは望ましい一歩だ」と指摘したほか、ティラーソン国務長官も22日に「近い将来」の米朝対話実現に期待を表明した。

8月23日、金正恩氏が「ICBM弾頭の増産を指示」と報道

挑発の姿勢を緩めない北朝鮮

朝鮮中央通信社(KCNA)は23日、金正恩朝鮮労働党委員長が大陸間弾道ミサイル(ICBM)用の固体燃料エンジンや弾頭部の増産を指示したと伝えた。

新型ICBM開発を示唆する写真も公開

朝鮮中央通信社(KCNA)は23日、金正恩朝鮮労働党委員長が「火星13」と称した3段式ミサイルの横に立っている写真を公開した。
このようなICBMが開発された場合、ニューヨークや首都ワシントンを含む米国本土はどこでも射程距離に入ると専門家らは指摘する。

8月26日、北朝鮮が短距離ミサイルを発射

記念日「先軍節」の翌日に発射 正恩氏のジレンマの現れか

挑発の姿勢を崩さない北朝鮮は26日、ミサイルとみられる飛翔体数発を発射。前日の25日は故・金正日総書記が軍事優先の政治を始めたとされる記念日「先軍節」で、警戒が高まっている中での発射でした。

北朝鮮は26日、米韓合同軍事演習のさなかにミサイルを発射した。記念日「先軍節」の翌日でもあったが、飛行は250キロ余りの短距離。“地味”に見えるミサイル発射には米国を恐れる半面、北朝鮮内部での権威を維持しなければならないという金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長のジレンマが表れている。

米国務長官は「挑発行為」と批判も対話呼びかけ

ティラーソン米国務長官は27日、米FOXテレビのインタビューで、北朝鮮による飛翔(ひしょう)体発射に関し「いかなる弾道ミサイル発射も国連安保理決議違反に当たる。米国と同盟国への挑発行為と見ている」と指摘した。

一方で、ティラーソン氏は「我々は今も北朝鮮と対話を始めたいと思っている」とも述べ、またトランプ政権は「当面は静観する構え」であると伝える記事もあります。

8月29日、新型中距離弾道ミサイル?1発を発射

26日の発射から間もない29日午前6時前、北朝鮮はまたも弾道ミサイル1発を発射しました。ミサイルは北海道上空を通過し、太平洋上に落下しました。ミサイルが沖縄以外の日本上空を通過したのは2009年4月以来になります。小野寺防衛相によると、今回のミサイルは高高度ではなく通常の発射角度であり、中距離型弾道ミサイル「火星12」ではないかということです。 日本全国でJアラートがなり、休校や電車の運行見合わせなど、日本各地に緊張と混乱が走り抜けました。

韓国軍によると、北朝鮮が発射したミサイルの飛行距離は約2700キロと推定され、最高高度約550キロに達したとみられる。これに関し、小野寺五典防衛相は「(通常より高い高度に打ち上げる)ロフテッド軌道ではない」と述べるとともに、北朝鮮から発射通告はなかったと説明。ミサイルの種類について、北朝鮮が5月に発射した新型中距離弾道ミサイル「火星12」の可能性があるとの見方も示した。

日米首脳、北への圧力強化を確認

このミサイル発射を受けてトランプ大統領は安倍首相と40分にわたる電話会談を実施。「これまでとレベルの異なる深刻な脅威」として国連安保理緊の緊急会合の開催し、北朝鮮に対して圧力を強めていくことで意見が一致しました。

電話会談は40分にわたって行われた。会談後、安倍首相は記者団に対し「直ちに国連安全保障理事会(UN Security Council)において緊急会合を開催し、北朝鮮に対して圧力をさらに強化をしていくこと」を確認したと明らかにした。

「戦争」が最終地点なのか…解決の糸口は?

もしアメリカと北朝鮮が戦争状態に突入したら日本は…?

「数千、数万の日本国民の命が失われかねない」

経済産業省元幹部官僚の古賀茂明氏は、グアムが北朝鮮に攻撃された場合、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に当たる可能性があると安倍政権は考えているとして、次のように述べています。

集団的自衛権を発動し、グアムの米軍を守るために日本が北のミサイルを迎撃したり、軍事行動を共にすればどうなるか? 北から見れば、日本を攻撃していないのに日本が攻撃を仕掛けてきた。ならば、自国防衛のために日本に対してもミサイル攻撃をしようとしてもおかしくない。日本を射程に収めるノドンミサイルの実戦配備数は200~300基とされている。へたをすると、数千、数万の日本国民の命が失われかねない。

日本の迎撃が核戦争への引き金を引く?

日本の集団的自衛権の行使によるミサイル迎撃は、「核戦争への引き金を引く」可能性を指摘する記事もあります。

ミサイル発射を宣戦布告と見なして、米国が迎撃に出て戦争になった場合、宣戦布告は北朝鮮によるものだが、事実上の因果関係のなかでは、日本がミサイル迎撃に出ることによって、核戦争への引き金を、日本の迎撃が結果的に引く可能性もありうる。

米英メディアで流行っている「予防的戦争」の意味

上の記事では、米英メディアで流行っている「プリベンティブ・ウォー」(予防的戦争)という表現を紹介。その言葉の意味とは…

それは、戦火を極東アジアで収める。端的に言って、日本と韓国を犠牲にする戦争ということだ。
米国は日本も韓国も同盟国であり、戦争になれば、もちろん勇敢な米兵たちは戦う。だが、米国という国土は犠牲にしない。そういう日本にとって危うい現実が待ち構えていることは無視できない。

日本が厳しい国際環境に追い込まれる?

米朝が戦争状態に突入せずとも、日本は苦しい立場に追い込まれる可能性があると指摘する記事も。
外務省元主任分析官で作家の佐藤優氏は、アメリカが「自国まで到達しない戦術核」の保有を容認する可能性を指摘しつつ、そうなった場合の日本の立場を解説しています。

こういう事態になったらどのような対応をすればよいのであろうか。非核3原則の「持たない」「造らない」「持ち込ませない」のうち、3番目の「持ち込ませない」を撤廃し、日本国内の米軍基地に核兵器を置いて抑止力を強化するというシナリオが出てくるであろう。もっとも米国には、どこに米軍が核兵器を展開しているかについて明らかにしないという原則がある。この原則を日本の安全保障を強化するために撤廃し、日本に米国の核が存在することを明言するようになるとは思えない。日本がとても厳しい国際環境に追い込まれる可能性がある。

このように、米朝間で軍事衝突が起こってしまえば当然、そうでなくても北朝鮮の核・ミサイル開発が日本を苦しい立場に追い込むようです。
日本にとっても緊張が増す北朝鮮問題に解決の糸口はあるのでしょうか?

なぜ北朝鮮は核・ミサイル開発をやめないのか

金正恩氏がアメリカの脅威に怯えている?

解決の糸口を探る前に、北朝鮮が“暴走”をやめない理由を見ておきましょう。
国際関係研究者の北野幸伯氏は、北朝鮮の現状について次のように解説しています。

金正恩は、アメリカの脅威に怯えています。反米の指導者、たとえばフセイン、カダフィは、殺された。シリアのアサドは、ロシアに守られている。しかし、アメリカは、可能であれば彼も殺すでしょう。
特にリビアのカダフィの例は、金正恩を恐怖させます。カダフィは、イラク戦争が始まった03年、「核兵器開発」を放棄しました。国連安保理は、この決断を評価し、リビア制裁を解除した。しかし、彼は8年後、米英仏に攻撃され、殺された。
こういう例もあるので、金正恩は、アメリカを信用することができない。「核兵器を放棄したら、俺も殺されるだろう」と感じているはずです。

“核”による抑止力が欲しい北朝鮮

また、海上自衛隊の海将などを務めてきた伊藤俊幸・金沢工業大学虎ノ門大学院教授は次のように述べています。

北朝鮮は、“自分たちにも核ミサイルをアメリカまで飛ばす軍事力があるとわかれば、アメリカは自分たちと対等に話をするはず”と考え、そのアピールのために、頻繁にミサイルを飛ばしているのです。言うなれば、北朝鮮が欲しいのは“核”による抑止力です。

なぜ中国とロシアは北朝鮮を守る?

前述の北野氏は、アメリカは軍事衝突を避けるために制裁強化で北朝鮮を交渉に引きずり出そうとしているものの、中国とロシアが北朝鮮を守るせいで制裁にあまり効果がないと指摘。そして、その「守る」理由についても言及しています。

北朝鮮は、中ロの脅威ではないのです。むしろ地政学的位置づけは、「アメリカの侵略を止めてくれる『緩衝国家』」。だから、文句を言いながら、中ロは北朝鮮を守ります。

かといって、中国やロシアが何もしていないわけでもありません。特に中国は、米朝間の緊張がピークに達した8月に制裁や“にらみ”を強化させています。

軍事同盟でにらみを効かせる中国

効いている8月10日の「中朝軍事同盟」カード

中国は北朝鮮が世界で唯一の軍事同盟を結んでいる国。下の記事では「中朝軍事同盟カードが効いている」として、中国共産党機関紙が社説で米朝両国に対して表明した「警告」を紹介しています。

(1)北朝鮮に対する警告:もし北朝鮮がアメリカ領を先制攻撃し、アメリカが報復として北朝鮮を武力攻撃した場合、中国は中立を保つ。(筆者注:中朝軍事同盟は無視する。)
(2)アメリカに対する警告:もしアメリカが米韓同盟の下、北朝鮮を先制攻撃すれば、中国は絶対にそれを阻止する。中国は決してその結果描かれる「政治的版図」を座視しない。
(3)中国は朝鮮半島の核化には絶対に反対するが、しかし朝鮮半島で戦争が起きることにも同時に反対する。(米韓、朝)どちら側の武力的挑戦にも反対する。この立場において、中国はロシアとの協力を強化する。

記事では、この「警告」がグアムなどアメリカ領土への北朝鮮のミサイル発射を抑制することにつながったとし、「中国の威嚇範囲内で北朝鮮は動いている」としています。

「中国は被害者だ」という中国内のつぶやき

北朝鮮問題の解決にある程度の役割を果たしている中国ですが、一方で「中国ができることには限りがある」という考えも根強くあるようです。

なぜそのような考えになるかといえば、北朝鮮の安全を脅かしているのは米国だけで、米国だけが北朝鮮の安全問題を解決できると考えるからだ。
(中略)
中国にとっては、北朝鮮の核・ミサイル問題と同国の安全は、米国と北朝鮮の問題で、両国しか解決できないのにもかかわらず、米国は中国に解決せよと迫ってくる。「米国はブルドーザーの運転席からあれこれ要求してくるが働かされるのは中国だ」とか、「中国は被害者だ」という中国内のつぶやきはそのような気持ちを反映している。

解決の糸口を模索するアメリカと日本

「水面下で交渉か」

アメリカと北朝鮮、そして日本も含めた国同士が、軍事衝突を避けるために「水面下で交渉をしているのではないか」とする記事も散見されます。

在京の情報当局者は「米朝の水面下接触の可能性がある」といい、続けた。
「6月ごろから、複数のルートで進められているとの分析がある。米国は『北朝鮮の核・ミサイル放棄』を狙い、北朝鮮は『正恩体制の存続保証』を求めているはずだ。ただ、双方とも相手を信用できない。このため、米国領グアムへの弾道ミサイル発射予告のような、一触即発の緊張関係に陥る。北朝鮮は体制維持には核・ミサイルが不可欠と考えており、双方の主張は矛盾する。トランプ政権は、正恩氏を籠絡しようとしている」
日朝間では、8月6日に行なわれたASEAN関連外相会議の夕食会の際、河野太郎・外相が北朝鮮の李容浩・外相と2年ぶりに意見を交わし、李外相側が「対話」を求めたことを読売新聞が報じている(8月15日付朝刊)。日米朝の間で水面下の動きがあることがうかがわれる上、トランプ大統領の「あるかもしれないし、ないかもしれないが、恐らく何か良いことが起こるだろう」(8月22日)の発言も意味深だ。

小泉純一郎・元首相「電撃訪朝」の情報も

安倍首相が、小泉純一郎・元首相を特使として北朝鮮へ電撃訪問させるという情報を伝える記事も。

2人はサシで会談し、総理はミサイル問題の打開のために小泉さんに訪朝を打診したとみられている。総理や周辺はこの小泉特使計画に大きな期待を抱いており、事前に米国との調整も行なって、トランプ大統領も前向きだという。

「協議の窓口は間もなく閉じる。速やかな行動が必要」

英ロンドンの国際戦略研究所(IISS)のマイケル・エレマン氏は「米国とその同盟国、中国、ロシアが、北朝鮮との協議によってミサイル発射を禁止する合意を取り付ければ、日増しに強まる北朝鮮の核兵器能力を抑えることができる。しかし、その窓口は間もなく閉ざされようとしており、速やかな行動が必要だ」と語った。

上の記事でエレマン氏が述べているように、北朝鮮の核・ミサイル開発は加速の一途を辿っていて、時間的な猶予がなくなってきています。
また、北朝鮮がグアムへのミサイル発射を保留したことで一旦は緊張が弱まったものの、29日に新たなミサイル発射が行われました。さらに、9月9日の「建国記念日」に合わせて弾道ミサイル発射や核実験を強行する可能性も伝えられていて、北朝鮮問題は落ち着くどころか、一層緊張が高まりそうな情勢です。果たして、この緊張状態に終わりは来るのでしょうか?

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