特集2016年11月18日更新

目指すは「宇宙強国」~加速する中国宇宙開発特集

10月に打ち上げられた中国のロケット「長征二号」。このロケットに搭載されていた有人宇宙船「神舟11号」は、宇宙ステーション「天宮二号」との合体にも成功。2人の宇宙飛行士は帰還予定の11月20日頃まで、宇宙生活を送っています。今や米露と並ぶ「宇宙大国」となった中国、その歩みをまとめました。

独自の宇宙ステーション計画

10月17日、有人宇宙船「神舟11号」搭載のロケット「長征二号Fロケット」打ち上げ

長征二号Fロケットは酒泉衛星発射センターから、2016年10月17日の8時30分に予定通りに打上げられました。宇宙船は上段ステージから分離し軌道上に無事投入され、約10分後にはソーラーパネルの展開にも成功しています。神舟十一号に搭乗したのはベテランの景海鵬宇宙飛行士と、陳冬宇宙飛行士。今後、2人をのせた宇宙船は2日後に宇宙実験室「天宮二号」とドッキングし、宇宙飛行士も実験室へと移動します。

中国の有人宇宙飛行は3年ぶり6回目

2013年6月に打ち上げた神舟十号から数えて、実に3年ぶりの有人宇宙飛行となります。

さらに「無人宇宙実験室」とのドッキングに成功

有人宇宙船・神州11号は無事に打ち上げられ、宇宙ステーション天宮2号とのドッキングにも成功した。マスコミの扱いは打ち上げ時はそれほどでもなく、1面掲載を見送った新聞もあるが、ドッキングはみな大きく報じている。

11月20日ごろに帰還予定

10月27日現在も順調に宇宙での生活を続けており、11月20日ごろに帰還する予定となっている。

このミッションの目的は?

22年の完成をめざしている中国独自の宇宙ステーションのためのドッキングや分離、地球への帰還といった技術検証と、長期に宇宙に滞在するためのノウハウを得る研究などを進める。
天宮二号の目的は、有人宇宙船「神舟11号」とドッキング、宇宙飛行士が“中期駐留”し、さまざまな地球科学データ収集と、量子力学など14の科学実験を行うことである。
30日間の滞在期間中、2人の宇宙飛行士は1日8時間、週6日勤務で、ドッキング中の機体管理や神舟九号、十号でも行った手動ドッキング、各種実験作業などを分担して行う予定となっています。

宇宙実験室「天宮」とは

「宇宙ステーション」ではなくて、あくまで「宇宙実験室」

中国国内での発表を見ていると、「天宮二号は本当の意味での中国初の『宇宙実験室』である」と表現されていることに気づきます。これは、中国の宇宙ステーション計画において、天宮一号、二号が厳密には「宇宙ステーション」ではなく、ステーション建設のための試験機という位置づけがされているためです。

大幅な機能強化された「天宮2号」

天宮一号に比べ、(1)地球科学観測研究設備、宇宙医学設備の搭載。(2)推進剤を始めとする推進系統の改良、改造。(3)居住環境の改良、睡眠環境の改善、娯楽設備の導入。(4)電気、液体(油圧と見られる)機械系統の新設備など大幅に機能強化されている。実験段階から実行へと移ったという。

「天宮一号」がコントロール不能で墜落?

2011年に打ち上げられた「天宮一号」は役目を終えて2017年の後半に地球に落下の予定。現在制御不能とのことだが、大気圏でほぼ燃え尽きる上に、海に落ちる可能性が極めて高いとのこと。

この重量8トンもある天宮一号はほとんどが大気圏で燃え尽きる予定です。中国メディアの新華社も、宇宙ステーション計画でディレクターを務めるWu Ping氏の発言を引用して「計算と分析によれば、天宮一号の大部分は落下途中に燃え尽きるはずだ」としています。ただしいくつかの機械的、あるいは技術的な理由から、中国は天宮一号のコントロールを失っていることもあわせて報じられています。

「本物」の宇宙ステーション建設を目指す

中国の有人宇宙開発にとって当面の目標は、大型の宇宙ステーションを建造することにある。
そのステーションの名前は「天宮」と呼ばれている(数字は付かないものの、試験機と同じ名前でやや紛らわしい)。天宮はステーション全体を指す名前で、中核となるコア・モジュールの「天和」をまず打ち上げ、そこへ実験室となる「問天」、「夢天」、「巡天」をそれぞれ別々に打ち上げ、宇宙で合体させて、一つの大型ステーションになる。

今後、中国が宇宙開発で大きな役割を?

現在複数国によって運用されている国際宇宙ステーション(ISS)は2024年までの運用しか決定されておらず、今後中国が宇宙開発において国際的に大きな役割を担うことになるかもしれません。

11月3日には運搬ロケット「長征5号」の打ち上げ成功

新型のロケットは低い軌道に25トン、静止軌道に14トンの物体を運搬可能で、従来のモデルより2.5倍高い運搬能力を持つという。これにより、「中国は有人宇宙ステーションの建設や、月、火星の探索が可能になる」と、新華社は述べた。

日本のH2ロケットをしのぐ性能

H2ロケットと同じく、液体水素と液体酸素を推進剤とする新型ロケットによって中国の技術は飛躍的な成長を遂げた。低軌道への打ち上げ能力は25トンと世界トップクラスを誇る。日本のH2Bロケットをはるかに上回るばかりか、2020年打ち上げ予定のH3ロケットをもしのぐ能力となっている。

「宇宙強国」を目指す中国

中国は2030年までの「宇宙強国」入りを目標としており、独自の宇宙ステーション完成を目指している。

成功に胸を張る習主席

宇宙船は19日、宇宙実験室「天宮2号」とのドッキングにも成功した。中国の習近平国家主席は「宇宙強国建設に新たな貢献」と胸を張った。冷戦時代、米国と旧ソ連が宇宙開発にしのぎを削ったが、中国が完全にもう一方の主役に躍り出た。

米国への強烈な対抗意識

中国の宇宙開発の原動力は、米国への強烈な対抗意識。国営新華社通信は「米国が技術拡散防止を理由にISSに中国が加わるのを拒んだ時から、独自ステーション建設の歴史が開かれた」と指摘した。

中国の宇宙開発の実力と実績

宇宙開発は1956年にスタート

中国の宇宙開発は1956年10月8日にミサイル研究機関である国防部第五研究院が設立されて始まった。70年4月に人工衛星「東方紅1号」の打ち上げに成功。旧ソ連、米国、フランス、日本に続いて宇宙開発に仲間入りした。

2003年に有人飛行を成功

2003年、楊利偉宇宙飛行士が搭乗した「神舟五号」が打ち上げられ、地球を約14周(約1日に相当)した後、無事に地球への帰還に成功。2005年には「神舟六号」で2人の飛行士が宇宙へ行き、2008年には3人が搭乗した「神舟七号」が打ち上げられ、そのうち2人が船外活動(宇宙遊泳)を実施している。

世界で3番目の有人宇宙船打ち上げ国

2003年10月には「神舟5号」の打ち上げに成功し、旧ソ連、米国に次ぐ世界で3番目の有人宇宙船打ち上げ国となった。

月への着陸にも成功

中国は米国と旧ソ連に続き、2013年12月に無人探査機の月面軟着陸を成し遂げ、探査車を月面に走らせた世界三番目の国になった。
これは旧ソ連が1976年にルナ24号の月面着陸を成し遂げて以来37年ぶりだ。

過去には悲惨な事故も

1996年2月14日、中国は国の威信をかけて各国プレスを四川省の西昌(せいしょう)衛生発射センターに招待し、新型ロケット「長征3号B型1号機」の打ち上げに臨んだ。ところが、ロケットは打ち上げ直後に機体が傾いてコントロールを失い、発射からわずか22秒後に近くの村めがけて落下してしまったのだ。
当時、現地で事故を目撃したアメリカ人宇宙開発技術者はこう語る。
「あの時は、夜空が真昼のように明るくなるほどの大事故だった。国営メディアの新華社は死亡者6人、負傷者57人と発表したが、実際には打ち上げを見物していた数百人の村人が建物ごと消えてなくなったんだよ…」

“パクリ”で終わらない高い技術力

技術というものは、たとえ手元に実物や設計図があるからといって、すぐに真似して造れるようなものではない。また中国が開発したエンジンは、輸入したソ連製エンジンよりも性能が大きく向上しており、単なるコピーではなく、中国独自の改良も加えられたことがわかる。つまり中国はこの技術をほぼ完全に会得したと見るべきである。

すでに“宇宙大国”

しかし、中国の宇宙開発の勢いは、人を宇宙へ送る有人宇宙開発の分野だけにとどまらない。ロケット開発や人工衛星の輸出、さらに宇宙科学の分野など、あらゆる面で近年活発な動きを見せており、名実ともに宇宙大国になった。そして今、宇宙開発においてアジア最大の極にもなろうとしている。

“宇宙大国”から“宇宙強国”へ

「さらに3分の1の指標が世界先進水準に達すれば、中国は宇宙強国になれる。中国宇宙事業関係者である我々はプレッシャーを感じているが、今後も取り組みを続け、2025年までに宇宙強国の目標を実現するよう努力する」

今後の計画は

来年には新たな無人補給船も打ち上げ

2017年には新たに開発された無人補給船「天舟一号」の打ち上げが行われる予定となっている。天舟一号は天宮一号、二号と似た機体であるものの、内部に生活必需品や実験機器、酸素や燃料などの補給物資を搭載できるようになっている、宇宙の貨物トラック、タンクローリーのような船である。天舟一号は打ち上げ後、自動で天宮二号へ近付きドッキングし、宇宙での燃料補給などを試験する。

中国版ハッブル望遠鏡も

宇宙ステーション計画に付随して、大気圏外から宇宙を観測する中国版ハッブル望遠鏡も軌道上に据えられる予定だ。

月や火星への有人飛行も

また、宇宙探査にも注力しており、月探査計画「嫦娥」や火星探査計画、小惑星探査計画を推進するためにも、「より遠く」を目指す能力を有するロケットが必要で、長征五号はその一翼を担う事になります。さらに、中国では現在、長征五号を上回る超大型ロケット「長征九号」の開発を進めており、その直径は長征五号のさらに倍となる10メートルといわれています。

地球外生命体の探索では「世界をリード」

中国は地球外生命体の探索にも力を注いでいる。7月には口径500メートルの巨大球面電波望遠鏡「FAST」が完成し、数年後の本格的な運用が予定されている。この望遠鏡は深宇宙からの地球外文明から発せられた信号の受信にも貢献するとされる。
米国が地球外生命体探索の資金を削減している一方で、次々に資金を投じ、巨大設備を完成させる中国は、地球外生命体探索の分野で世界をリードするようになっているという。

「宇宙大国」から「宇宙強国」への道を着々と進む中国。軍事利用などへの不安は残りますが、今後どういった進歩をしていくのか?興味が持たれるところです。