岸田政権へのアメリカの反応は その4 核廃絶と核抑止の矛盾
Japan In-depth / 2021年12月1日 23時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・米の「核の傘」の下にありながら、核兵器廃絶を目指す岸田氏の主張は矛盾をはらんでいる。
・矛盾が続けば、米国内で日本防衛を疑問視する声が生まれる恐れ。
・日本の核抑止について、より広範な選択肢を検討すべきとの意見も。
さて岸田氏の首相としての政策へのアメリカ側の反応に報告を戻そう。
前述のプレストウィッツ氏は以下の言葉をも述べた。
「岸田氏は『国民の所得倍増』というスローガンをも掲げたが、経済政策的にはあまりに非現実的だ。さらに『中国との安定した関係』というのも、中国の無謀、無法な行動を抑えることなく現状を受け入れるようにも受け取れるので、真意がわからない。アメリカ側の反応は当惑だといえる」
岸田氏の新首相としての言動に対してはアメリカ側では他にも手厳しい論評が出た。
ジョージタウン大学東アジア言語・文化学部のケビン・ドーク教授が私のインタビューに応じて述べた見解を紹介しよう。
ドーク教授は日本での研究や教育の年月が長く、日本の歴史や政治をも研究の専門領域とする学者である。ジョージタウン大学では学部長を務めたこともある。
▲写真 ジョージタウン大学東アジア言語・文化学部ケビン・ドーク教授 出典:ジョージタウン大学
ドーク氏はまず岸田氏の核兵器廃絶の主張への疑問を提起した。
岸田氏は「核兵器のない世界へ」という自著でも核兵器の全廃という主張を展開している。広島出身の政治家としては十分に理解のできる主張ではあるが、日本の防衛はアメリカの「核の傘」の下にある。
アメリカが同盟国への第三国からの核の攻撃や威嚇に対して自国の核兵器の威力を発揮して、抑止するという「拡大核抑止」の庇護下に日本はみずからをおくという国家安全保障の選択肢を選んできたのだ。
その日本の首相がアメリカの核兵器を含めていまの世界からすべての核をなくしてしまえと主張することには明白な矛盾がある。
アメリカ側からそのあたりの批判的な指摘が出てくるのは自然だといえよう。
▲写真 核不拡散条約の運用検討会議に参加する岸田氏 (2015年4月27日) 出典:岸田文雄氏 公式Facebook
ドーク氏の意見は以下のようだった。
「日本国民の広島、長崎での被爆体験からの核兵器に対する過敏な拒否反応や岸田首相のその点への配慮は十二分に理解できる。しかし現在の日本は核兵器を保有した中国や北朝鮮が多様な軍事攻勢をかけてくることに対してどのように自国の平和や独立を保つのか、核兵器による抑止をみずから一方的に放棄しても安全なのか」
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