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中学生の息子の「クソババア」にカーッとなって「出ていけ!」と言いそうになったときに踏みとどまる方法

プレジデントオンライン / 2024年3月11日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daniel Tadevosyan

子どもの話を上手に聞くにはどうしたらいいのか。臨床心理士で公認心理師の諸富祥彦さんは「子どものことを大切に思う愛情や気持ちはあるのに、言い方がわからないために親子関係がねじれてしまうことが多い」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、諸富祥彦『プロカウンセラーの こころの声を聞く技術 聞いてもらう技術』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■「言い方」でねじれる親子関係

私のカウンセラーとしての初仕事は、ある地域の児童相談所が振り出しでした。その後はもう40年近くカウンセラーを行っており、多くの親御さんの相談を受けてきました。そんな経験から、思うことがあります。

カウンセリングに来られる親御さんの多くは、お子さんのことを思っています。お子さんのことを大切に思う「愛情」「気持ち」はあるのです。

しかし、「言い方」がわからない方が多い。そのために親子関係がねじれてしまうことが多いのです。

いくつかケースを紹介しながら、考えていきたいと思います。

ケース1
「今度の担任の先生、いやだなあ」
「なんでいやなんだ? 困ったことがあるなら、なんでも言ってみなさい」
「だって、宿題が多いし、よく怒るから」
「なんだ、そんなことぐらい。それはお前のわがままだろう。もっと頑張んなきゃ!」
ケース2
「今日は学校に行きたくないなあ」
「なんで行きたくないの? お母さんにはなんでも話していいのよ」
「○○くんとケンカしちゃってさ。仲直りできるかな……」
「そんなことぐらい。自分で考えなさい!」

■「なんでも話していい」と言ったのに…

「なんでも話していいのよ」

親のこの言葉を信じて、子どもが自分の気持ちを素直に言葉にして話すと、即座に「それはお前のわがままだ!」「もっと頑張んなきゃ!」「自分で考えなさい!」などと否定されてしまう。これでは、子どもはどうしたらいいかわからなくなってしまいます。親の言葉を信じてもろくなことはない、と不信感が募って、こころを閉ざしてしまいます。

「なんでも話していいのよ」(=私はあなたを受け止めるよ)
「お前のわがままだろう」(=あなたが悪い!)

矛盾したメッセージを親から同時に送られ続けると、子どものこころは混乱してしまいます。こうした「矛盾したメッセージ」の中にいつも置かれると、「ダブルバインド」と呼ばれる状態に陥り、精神の病を発症してしまうことにもつながりかねません。

■子どものこころを受け止めるには

ケース1の改善例
「今度の担任の先生、いやだなあ」
「そうか、いやか……。そう思っちゃうことが何かあったのかな?」
「だって、宿題が多いし、よく怒るからいやなんだ」
「それは大変だな。そんなに宿題が多いのか。お前もつらいなあ」
ケース2の改善例
「今日は学校に行きたくないなあ」
「そっか。行きたくない……。そう思うことが何かあったのね」
「○○くんとケンカしちゃってさ。仲直りできるかな……」
「そっか。○○くんと仲がよかったものね。うまく仲直りできるかどうか、自信なくて、学校に行くの、やだなあって思っちゃうのね……」

こんなふうに、子どもの気持ちを「ただそのまま受け止める」だけでいいのです。

・「でもね」「そうは言ってもね」を言わない
・アドバイスはしない
・軽い一言で十分「そうか」「それは大変だね」
・「余計な一言」を言わない

これらにも気を付け、さらには、その話で相手が言おうとしている「つらい」「さびしい」といった、その人の「気持ち」を表す言葉をピックアップして、「○○な気持ちなんだね」と伝えてもよいでしょう。

このように、子どもの気持ちにピタッとくる一言を推測して添えることができると、子どもは「お父さん、お母さんは、僕(私)の気持ちをわかってくれようとしている!」と思って、もっと気持ちを語り出すかもしれません。時には、

「もうつらいよ」
「私なんかいないほうがいいのかもしれない」
「死んでしまいたい」

などという重い言葉を子どもが語り始めるかもしれません。その際にもせっかく話してくれたその気持ちをそのまましっかり受け止めましょう。

■励ましたりしない

「そうなんだ……」

親としては、そのまま絶句してしまうかもしれません。ショックのあまり、何も言葉が出てこないかもしれません。

それでよいのです。すると、子どもは、自分の言葉を親が重く受け止めてくれたと感じるでしょう。

「そんなこと言わないで。頑張ろう!」などと励ましたりしないでください。こんなふうに励まされると、子どもは、親が自分の気持ちから「逃げたな」「逸らしたな」「ごまかしたくなったな」と感じます。そのため、こころを閉ざし始めます。二度と気持ちを語ってくれなくなるかもしれません。

子どもが悩みを言葉にしてくれるのは、とても素晴らしいことです。つらいことや苦しいことを親に言えるのは、「この親になら、わかってもらえる!」という安心感・信頼感があるからです。親子の間に信頼関係が築かれている証拠です。その信頼に応えるには、子どもの気持ちを逸らしたり、ごまかしたりせず、しっかりとそのまま受け止めることです。

母親に励まされた子供
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■学校に行きたくないという子どもとの会話

ケース3
「お母さん……。私、もう学校に行きたくない」
「えっ、なんで、行きたくないの⁉」
「私、学校で仲間外れにされてるんだ……」
「え─‼ いじめられてるってこと⁉ なんでそんなことになったのよ! 許せない‼ 担任の先生に言わないと! お母さん、学校に行ってくる!」
「え─‼」
ケース3の改善例
「お母さん……。私、もう学校に行きたくない」
「そうなの、行きたくないの……。何か学校でつらいことでもあったのかな」
「私、学校で仲間外れにされてるんだ……」
「(少し低めの声で、ゆっくりと穏やかなやさしい口調で)そうか。それはつらいわね……。ありがとう。よく話してくれたね」

子どもから「もう学校に行きたくない」「仲間外れにされてる」「いじめられている」などと打ち明けられると、親としてはうろたえたり不安になったりしがちです。ですが、親が「なんでそんなことになったのよ!」とオロオロしたり問いつめたりしてしまうと、子どもはますます不安になってしまいます。

せっかく勇気を出して相談したのに、その気持ちを受け止めてもらえず、大騒ぎされると、「二度と話すもんか!」とこころを閉ざしてしまいがちです。最悪のケースでは、親が知らないまま、いじめが原因で自殺、といったことにもなりかねません。

子どもから悩みを打ち明けられて、親である自分の気持ちが不安で波立ってしまったら、フーッと深呼吸でもして、気持ちを落ち着かせましょう。

親自身が、穏やかな気持ちに自分を整えて、安定した構えで聞くことが大事です。そして、子どもが勇気を出して打ち明けてくれたことをねぎらってほしいのです。これが一番大事なことです。

■絶対に親が口にしてはいけない言葉

子どもから「いじめを受けている」と告白をされたときに、親としては絶対に言ってはいけない3つの言葉があります。

「あなたにも悪いところがあるよね」
「あなたがもっと強くなればいいでしょ」
「そんなことくらい、気にしないようにしなさい」

これらの言葉は、つらく苦しい気持ちになっている子どもをますます追い詰めてしまいます。もう誰にも助けを求めることはできないと、絶望感でいっぱいになるでしょう。

特に、「あなたにも悪いところがある」と言われてしまうと、子どもは「私(僕)なんかいじめられてもしょうがないんだ……」という気持ちになります。「どんなにいじめを受けても仕方のない存在なんだ」と自己否定感が強まってしまいます。

■いじめを受けた子どもにかける言葉

「実は、私、学校でいじめにあっているの……」

子どもからこんな告白を受けたときには、子どものつらさに寄り添いながら、大事な話をしてくれたことをねぎらってほしいのです。

「つらかったね……。よく頑張ってきたね。話してくれてありがとう」

それだけ言って、あとは子どもの語る言葉に静かに耳を傾けましょう。なかには語りながら泣き出してしまう子もいるかもしれません。そのときには、「思いきり泣いてもいいんだよ。お母さん(お父さん)も一緒に泣きたいくらいだよ」と、とことん子どもの気持ちに寄り添ってあげてください。

人間は、つらいときにはつらいと打ち明けて、悲しいときには十分に悲しむことが大切です。子どもがつらいときには、親子でそのつらさを分かちあいましょう。「弱音を吐いてもいいんだよ」と伝えた上で、「お母さん(お父さん)は、絶対にあなたの味方だからね。あなたは悪くないんだから。いじめは、いじめをしたほうが悪いんだよ」

そうきっぱり言いきって、子どものこころを守ることに全力を注ぎましょう。

■「攻撃に攻撃で返す」会話

言葉一つで、相手をいたわることも救うこともできるものです。その半面、言葉は武器にもなります。

言い方を間違えることで、人間関係をねじれさせてしまい、その「ねじれた関係」が固定化されてしまうこともあります。典型的なケースは「攻撃に攻撃で返す」例です。

次のケースは、塾の宿題を隠していた中学生の息子と、それに腹を立てた母親との会話の例です。

ケース4
「なんで、そんなことするのよ。バカじゃないのまったく!」
「……バカはお前だろ」
「あんたなんか産むんじゃなかった……」
「オレのほうこそ、あんたの子どもになんか、なりたくなかったよ。クソババア!」
「なによこのクソガキ。だったら出て行きなさい!」

このように、「攻撃に攻撃で返す」というのは、親子関係や夫婦関係でやってしまいがちなNGパターンです。

■「攻撃に攻撃」の悪循環

私はスクールカウンセラーをやっていますが、中学生の子どもが親に悪態をついて、その親から「頭にきて、イライラして、仕方ないんですけど……」と相談を受けることがあります。「クソジジイ、クソババア」と子どもから言われたときに、親が「なんだこのクソガキ、だったら出て行け!」と応戦して、本当にお子さんが家出をしてしまうケースは少なくありません。

攻撃に攻撃で返すと悪循環が固定化してしまいます。これは考えればすぐにわかることです。しかし渦中にいる本人たちは、カーッとなってしまっているので気づかないのです。読者のみなさんであれば、「攻撃に攻撃で返す」ことの愚かさが簡単に見えてくるのではないでしょうか。

ケース4の改善例
「なんで、そんなことするのよ。バカじゃないのまったく!」
「……バカで悪かったな……」
「(自分のイライラした気持ちが止まらなくなっていることに気づいて)ごめんね! お母さんが言い過ぎたわ。お母さん、今日なんかちょっとイライラしちゃってて……。あなたはバカなんかじゃないからね」

このように、親のほうが「一歩引いて」「大人」になって、悪循環から身を退けることが大切です。

攻撃に攻撃で返すという最悪のパターンが続くと、「あんたなんか産むんじゃなかった」「こっちだって、あんたの子どもになんか、なりたくなかったよ」と、こころにもない言葉のやり取りがエスカレートしがちです。最悪の場合、5年、10年、20年と親子の関係が断絶することにもなりかねません。

■イラッとしたらその場を離れる

こうした最悪のケースを避けるための最大のポイントは、「イラッとしたら、話をしない。その場から離れて、いなくなる」ことです。

諸富祥彦『プロカウンセラーの こころの声を聞く技術 聞いてもらう技術』(SB新書)
諸富祥彦『プロカウンセラーの こころの声を聞く技術 聞いてもらう技術』(SB新書)

「これはやりあってもいいことは起こらない」

こう思ったら、その場から離れて、いなくなるのです。最低2時間は距離をとります。2時間も経つと、お互い、冷静になってくるものです。どちらからともなく、「さっきはごめんね……」と話ができることが多くなります。

大切なのは、イライラ、カリカリしたまま、相手と話し続けないこと。この大原則を守ってください。

もしもこじれまくって、ものすごい罵(ののし)りあいをしたあとであれば、最低2カ月は距離を置いたほうがいいと思います。それくらいしないと、親子関係の修復というのは難しいものだと肝に銘じておいてください。

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諸富 祥彦(もろとみ・よしひこ)
明治大学文学部教授
1963年福岡県生まれ。教育学博士。臨床心理士。公認心理師。教育カウンセラー。「すべての子どもはこの世に生まれてきた意味がある」というメッセージをベースに、30年以上、さまざまな子育ての悩みを抱える親に、具体的な解決法をアドバイスしている。教育・心理関係の著書が100冊を超える。

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(明治大学文学部教授 諸富 祥彦)

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