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大谷翔平選手の記者会見は「人間宣言」だった…「完璧超人」として無条件で崇めてきたマスコミの不誠実

プレジデントオンライン / 2024年3月28日 6時15分

パドレスとの開幕シリーズを前に、記者会見するドジャースの大谷翔平(右)。左は水原一平通訳=2024年3月16日、韓国・ソウル - 写真=時事通信フォト

■つい先日まで結婚発表で日本全体が祝賀ムードだった

常勝を目指すアメリカ西海岸の大正義球団俺たちのドジャースと複数年合計1000億円にもなる巨額契約を結び、日本の野球少年のために全国2万の小学校に3個ずつ計6万個のグローブを配ったりして、世界のひのき舞台で大活躍を続けてきたスーパースター、大谷翔平さん。

シーズンイン直前に日本人女性とのご結婚まで発表され、日本全体が祝賀ムードに浸っておりました。あっ、普通にそういう感じだったんですね諒解っス。

そこから急転直下、長年にわたり大谷翔平の活躍を支えてきた専属通訳・水原一平さんが、大谷さんの信頼をバックに横領に近い形でカネをつまみ、あろうことかカリフォルニア州では違法とされるスポーツ賭博(ベッティング)に7億円もの資金を突っ込んでいたことが発覚し大騒ぎとなったわけであります。それも、FBIが捜査してるぞとか、最近ではDHS(国土安全保障省)も捜査に参加って話が出てきて、単発の賭博事件じゃないんじゃないのって感じで騒動が大きくなってきました。大変だこりゃ。

あまりにも突然のことでしたので、シーズン開幕を控えたアメリカのスポーツシーンも騒然とし、日本のスポーツマスコミだけでなく連日テレビもネットも大谷翔平さんの突然の暗転に唖然とし、驚愕しました。どうなってしまうんでしょう。

■横綱に求めた「強さだけでない人間としての品格」を体現

いままで実力でしのぎを削る世界最高峰のスポーツ界において、日本人はどっちかというとさえないポジションに甘んじてきたのも事実です。小さく華奢な身体、筋肉がついていくと一緒に脂肪も増えがちな日本人特有の遺伝的な身体性は、瞬発力とパワー、正確さのトライアングルの大きさが重視されるスポーツでは民族的に不向きとされてきたことも背景にあります。

それでも、戦前から競技人口が日本でもトップクラスの野球は、アジア人初のメジャーリーガー村上雅則さん、そして冒険的なメジャー挑戦が成功した野茂英雄さんを経て、イチローさんや松井秀樹さん、松井稼頭央さん、長谷川滋利さん、井川慶さんをはじめ、川崎宗則さんや中村紀洋さん、西岡剛さんら日本球界を支える選手たちがさらなる高みを目指して奮闘してきました。

いまでもダルビッシュ有さんや菊池雄星さん、鈴木誠也さんらが活躍する中でも大谷翔平さんの、文字通り頭ひとつ出た活躍には、ある意味で国民的人気をバックにヒーロー的な存在として崇め奉る信仰の対象となってきたのです。

何より、伝え聞く大谷翔平さんの野球に対するひたむきさ、ストイックなものの考え方には日本人的美的感覚にそった英雄観と相まって、憧れを超えたすごい何かがあったように思うんですよ。至宝の扱いというか、単に人気がある、実力がすごいというだけでない、特別な何か。伝わる人柄、人間性に対する無限の信頼感であって、かつて日本人が横綱に求めた「強さだけでない人間としての品格」を生まれながらにして体得しているかのような大谷翔平さんの完璧ぶりにみんな驚嘆していました。

■八百長疑惑という嫌疑までかかってしまった

で、水原一平さんですよ。なんかスポーツマスコミって、割と「糟糠の妻」的な、メジャー挑戦する大谷翔平さんのニコイチ、忠実な友人にして信頼できる通訳兼付き人みたいなイメージで売り出してませんでしたっけ。

伝わってくるエピソードがどれもガチクズの要素がてんこ盛りになってしまってるんですよ。ヤバイって。いわゆるギャンブル依存に特有のとっさのウソや虚飾だけでなく、実はカリフォルニア大学は卒業してませんでしたとか、事前のアメリカメディアにはインタビューでウソを語ってましたとか、手のひら返しも180度まででお願いしますと言いたくなるようなどうしようもない人物像まで伝わってきてしまっています。

記者会見のために置かれた大量のマイク
写真=iStock.com/RichLegg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RichLegg

もちろん、あくまで悪いのはギャンブル依存であり、そのスポーツ賭博にしてもあくまでカリフォルニア州では禁じられている内容だったということを差し引かなければなりません。水原一平さんが置かれていた真の状況については、これから明らかになっていくでしょう。

しかしながら、賭け事の対象として野球賭博が疑われており、トップ中のトップ選手である大谷翔平さんから先発投手の調子が聞けていたらイカサマじゃないかとか、いわゆる八百長疑惑までついてくる以上、そういう嫌疑がかかってしまったら晴らすのは大変なことです。いわば、やっていないことは悪魔の証明であって、信じられるとしたら大谷翔平さんの超絶ストイックな人柄と大谷さんが水原さんに預けたとされる口座の状況に関する客観的証拠のみです。

■スポーツ界の「完璧超人」も、29歳の若者である

スポーツ賭博を開帳していた事業者側の弁護士は大谷翔平さんからの入金があったことと大谷さんも顧客であることを売りにしたことを認めつつも、事実として、事業者が大谷さんとコンタクトを取っていたわけではないことを考えればメジャーリーグ機構としても大谷さんに重大な処分をするかどうかは微妙な情勢であるとされています。

ただですな、そんなスポーツ界の「完璧超人」大谷翔平さんと言えど、社会人経験という観点からしますと、29歳の若者なわけですよ。某社で言えば、ツーブロックのグループ長になってゴリラ率いてオッスオッス言っている年齢です。それも、野球という非常に限定された、世間一般で言えばかなり特殊な閉鎖的な世界において才能を発揮して、日本国民だけでなく野球を愛する世界50億人から愛される珍しいスーパースターなのです。

思い返せば、日本でも名を馳せた名選手であり阪神の監督まで務めた金本知憲さんも、2013年に極めて近しい知人に8億円もの資金を詐取され裁判沙汰になったり、メジャーでも大活躍して日本球界に名を残した中村紀洋さんの奥さんが手がけたアパレルが事業的に大失敗して大変なことになったり、本人の稼ぎをアテにしたカネを巡る騒動というのは後を絶ちません。中村紀洋さんの奥さんは近鉄時代のチームメイトの村上隆行さんの妹さんで、村上さんと言えば初代ファミスタではレイルウェイズの7番打者としても著名です。

■偉大なスポーツ選手も、結局は同じ人間である

また、名選手本人の転落劇というのは野球界では賭博常習犯であったピート・ローズさんが永久追放されている一方、ゴルフ界でも現在の大谷さんなみに声望を集めたタイガー・ウッズさんも大変なスキャンダルに見舞われました。アメフトの著名プレイヤーであったO.J.シンプソンさんも元奥さんや友人を射殺した嫌疑で逮捕され社会的騒動となりました(刑事裁判では無罪)。

そんな中、大谷翔平さんがこれらの堕ちていったスーパースターと同列になることは現段階では考えにくいものの、偉大なスポーツ選手あるあるというか、そういう人でも結局は人間なんだなと思うわけですよ。だって、いくら稼ぎがあるからと言って、常識的に7億円もの口座を親しい通訳兼付き人に自由に使わせますかね。経費の支払いがあるにしても、それだけの資金を持っている人であれば、会計に詳しい人を置いたり税理士や公認会計士ほか金融サービスを使ったりして、一定の管理はするものだろうと個人的には思います。

もちろん、私だって会社経営や投資をする中でとんでもないトラブルに巻き込まれたことはあります。稼業の産業廃棄物事業を父親から経営移管された際に、虎の子であった3000万円ほどの設備を当時雇っていた幹部社員と中国人社員に勝手に売り払われてしまって、設備がないことに気づいたころには逃げ散られていたこともありました。人間、ちゃんと目が届くように経営しないと横領なんて日常的に起きるというのは中小企業経営では当然あるリスクであるとも言えます。覚えてろよ。

■「まともなやつがいない」というヒリヒリした状況

裏を返せば、そんな超人的能力を誇る大谷翔平さんも「人を見る目がなかった」というよりは、他人を信じすぎた甘い面があったってことだと思うんですよ。決してギャンブル依存症の人の前に自由に手を付けられる億単位のカネを置いておくなって話だけではありません。これはもう誰だって、使い込んで当面バレないカネがあったら手をつけちゃう誘惑にかられるものでしょう。

例えば深夜酔って帰宅途上に、足元にぽつんと100万円の札束が落ちていて周りに誰も居なそうだってなったとき、おまえ警察に届けますか。100万なら怖い? じゃあ5万円なら? 1万円なら? 人によってネコババするお値段は異なるかもしれませんが、世の中そんなもんだと思うんですよ。バレないならもらったれ、っていう。

ましてやギャンブルやっていたとされる水原一平さんなら、理性では「ずっと大谷翔平さんにくっついて通訳としてはあり得ないぐらいの高額報酬を得て、世間的にも愛されキャラのままで幸せな人生をまっとうできるかもしれない」というセーフゾーンより「おっ、目の前に10億円あるやんけ、バレないようなら賭博に使ったろ」と思う天使と悪魔はいたと思うんですよ。

その結果が、そんな奴を信用して自分の輝かしいキャリアを危険に晒している大谷翔平さんの釈明会見であり、一気に中小企業経営者の「誰一人まともなやつが周りにいない」というヒリヒリした状況で経営している現実に引き戻されるのです。分かる、分かるぞ大谷翔平。目が行き届いてないと、ダブルチェックしたつもりでも横領されてカネは使い込まれるもんやねん。信頼していたはずの幹部が部下と取引先奪って独立するのを涙目で背中を見送ったりするんだよ。ちくしょうめ。

■スーパースターを身近な存在にできるチャンスに

だから、ワイなんかは大谷翔平さんのあの釈明会見は彼なりの「人間宣言」だったんだと思います。クソ野郎にやられましたと。あいつが駄目なガチクズだと気づいていませんでしたと。スーパースターである自分の能力には限界がありましたと。お騒がせしてすみませんでしたと。ああ、横領されたというクソみたいな事実を釈明するために顛末をまとめた状況説明書と返済リスケジュールを求める事業計画書・返済計画書を持って商工中金や政策金融公庫に向かう日々を思い出します。屈辱なんですよあれは。

その点で言うと、たぶんこの記事を読んでいるほとんどすべての人にとって、スーパースター大谷翔平様が、営業でやらかした大谷くんという身近な存在にできるチャンスになったと思います。某社でゴリラが汚い字で反省文を上司に提出するのと何ら変わりない。ただ、危機に晒されているカネの桁が7つぐらい違うだけの話です。無条件で崇める遠い対象から、実は薄い社会経験がゆえに派手にしでかして「大谷くん! 困ったことがあったらいつでも電話してよ。相談に乗るよ」って言える身近な存在に。

スラムダンクの井上雄彦さんが、キャラクターは「欠点で愛される」って言ってましたが、ストイックな完璧超人であるがゆえに脇が甘くてガチクズらしき人を信用して無断でカネ持ち出されてギャンブルに使われちゃうとか最高じゃないですか、人間くさくて。

これまでトミージョン手術を除けばほぼ順調に野球人としてのキャリアを重ねてきて栄光に包まれた大谷翔平さんが、等身大で人間味のある優れた若者にというジョブチェンジが果たせるんじゃないかと期待しています。いや、全部が成功ですごくて完璧だとか、いつまでも続けられるもんじゃないですよ人生。山あり谷あり、たまに崖から落ちるぐらいいいじゃないですか。本当に崖から落ちたら死んじゃうけど。

■「本人の人間性」で窮地を逃れられるはず

一部のアメリカ人は、実は水原一平さんは身代わりでギャンブルは大谷翔平さんがやってたんじゃないかとか、ピート・ローズさん並みの問題を起こしたのだから永久追放だとか言ってますけど、それはもう球団とチャンと相談して堂々と裁判をやり、しかしMLBコミッショナーが決めた処分の裁定があれば胸を張って受けたらよろしい。

水原一平さんにしたって、確実なキャリアがありながらギャンブラー特有のくさみを発揮して人生をかけて賭博にぶっ込んだんだからちゃんと依存の治療を受けてやり直していきゃいいんですよ。黒歴史は仕方のないことだけど、それを上回る活躍をして上書きしていけば、それでいいんです。

そもそも大谷翔平さんがギャンブル依存症なんだとしたら、いま博打を張れるカネが欲しい状況なのに年俸支払いを後回しにさせることなんて考えづらいですから、最後の一線、やっぱり大谷翔平さんの人間性が根拠となってこの窮地を逃れることができると信じていますよ。どう転ぶか分からない状況ではありますが、良い意味で、期待して本格的なシーズン開始を待ちたいと思います。

※おことわり:筆者はメジャーリーグ球団の傘下チームで業務を請けているMLB利害関係者ですが、本件ではチームやMLB機構ほかから個別の事情を知り得る立場にはありません。

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山本 一郎(やまもと・いちろう)
情報法制研究所 事務局次長・上席研究員
1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。

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(情報法制研究所 事務局次長・上席研究員 山本 一郎)

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