食費は毎日300円、牛肉は2年食べていない…就活失敗でうつ病の25歳女性が給料日に買う250円の"ご褒美"【2023編集部セレクション】
プレジデントオンライン / 2024年5月3日 10時15分
※本稿は、増田明利『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)の一部を再編集したものです。
■群馬の短大卒業後、契約社員になるが3年で雇い止め
出身地:群馬県沼田市 現住所:東京都墨田区 最終学歴:短大卒
職業:パチンコ景品交換所窓口業務 雇用形態:アルバイト
収入:時給1100円、月収は11万円ほど 住居形態:賃貸アパート 家賃:5万円
家族構成:独身 郷里の両親は健在、他に弟 支持政党:特になし
最近の大きな出費:デッキシューズ購入(1280円)
仕事場に向かうためアパートを出るのは夕方5時過ぎ。1月上旬なのでこの時刻ではすっかり日が暮れているが、この暗さが気分的には落ち着く。仕事場は駅近くの雑居ビルの1階にあるパチンコ屋の景品交換所。ここで店番をしているのだ。
「地元(群馬県)の短大を卒業して就職したのがこちらの会社なんです」
新卒で入社したのは業務用化粧品の製造販売会社。理髪店や美容院で使用するシャンプー、リンス、コールドパーマ液、ヘアカラー、その他の用具を取り扱っている中堅どころの会社だった。
「だけど正社員での採用ではなく契約社員での入社です。将来的には正規雇用に転換するからと言われていたのですが、3年ちょっとで雇い止めになりました」
理由は業績の悪化。正社員のリストラもあったから契約社員の身では抵抗しようがなかった。
「おざなりの送別会があって追い出されました」
会社都合の退職なので失業手当は7日の待機で支給対象になった。ところが再就職はまったくの不調だった。
「ハローワーク経由で応募しても半分以上が書類選考でハネられました。面接まで進めたのは4社あったのですが最終的にはすべてお断りでした。お祈りメールをもらいすぎて嫌になりましたね」
■就活が難航、うつ病に
就職支援会社が主催するジョブフェア、合同面接会にも足繁く参加してみたがこれはという求人は少なく、興味が湧く仕事は経験を求められる。
「自分では年齢的に第二新卒のつもりでいたのですが世間の評価は低かった。こういうわけで失業手当があるうちに次の仕事を得るのは駄目だったんです」
ここはとりあえず派遣とも思ったが、今度は安定した正規雇用の仕事に就きたいと思っていたのでアルバイトを掛け持ちしながら、引き続き就職活動することを選択した。
「自分では手応えがあったところも何社かあった。これなら大丈夫だろうと期待していたけど結果は不採用。こういうことが続いてメンタルがおかしくなってしまいました」
まず下痢と便秘を繰り返す。眠りが浅くなり、そのうちまったく眠れない日もあるように。イライラや耳鳴り、食欲不振などの症状も出てきて耐えられなくなり病院へ。
内科ではこれといった問題は出てこず心療内科へ回された。そこで下された診断は軽度のうつ病。
「何となくですがそんな気がしていたので驚きはしませんでした。図書館にある家庭の医学などを読んでみたら符合することがあったので。ドクターからうつ病ですと知らされても冷静でしたね。ああ、やっちゃったかという感じです。これで職探しは一時中断となってしまいました」
■貯金残高が100万円を切ると無性に不安
およそ半年間は貯金を取り崩して暮らしていたが、そんなに多くの蓄えがあるわけではない。貯金の残高が100万円を切ると無性に不安になった。
「ハローワークに通うのだって交通費が必要なわけだし」
とりあえずアルバイトでいいから働こうと決意したが、精神的に不安定なときもあって人と接するのは緊張して駄目。
「睡眠障害も完全には治っていなくて。夜に眠れず明け方になって眠くなったり、日中は終始だるかったりするのですが、日が傾く頃に元気になってくるような感じでした。そういうわけで夕方から4、5時間働けるところはないかと探していたら、たまたま見つけられたんです」
勤務時間は夜6時から10時30分までの4時間30分、時給は1100円。休憩時間は定められていないが客のいないときにトイレに行ったり、コーヒーを飲むぐらいは咎められない。
「わたし、世の中にこんな仕事があるなんて知りませんでした。パチンコなんてやったことがないし家族もそうですから」
店で勝った客は出した玉数に見合う香水瓶を持って交換所に来る。それを買い取ってお金を渡すのが仕事だ。
「人相や風体の良くない人が多いですよ」
子ども連れでやってくる女性や高齢者も多く、正直に言ってこれまで関わってきたことがない人たちばかり。体調が良ければ絶対にやりたくないことだが贅沢は言っていられない。
「収入は週6日出て月11万円あるかないかっていう金額です」
これだけでは暮らせないので貯金から2万円出してなんとかやっている。
「1カ月の生活費が13万円というのは東京都の生活保護と同じだそうです。要するに貧乏ですね」
■牛肉は2年近くも食べていない
月々の支出はどうかというと家賃、水道光熱費、社会保険料、医療費などを合計すると10万円超。食費その他を2万7、8000円でやり繰りしている。
「食費は1万8000円が上限。これ以上は絶対に使わないようにしています」
お米、味噌、醤油などは実家から送ってもらっているので助かっている。
「買い物はとにかく安いもの、これが絶対条件です。ギフトの解体品なんかも買うし、缶詰は凹んでいるものや缶のプリントが少し剝がれているワケあり品を激安で買っています」
100グラム入りのインスタントコーヒーが188円。缶入りの野菜ジュースは19円という具合に。
「電気代を節約するためにご飯は一度に5合炊きます。これでお茶碗10杯分になるんです。間にうどん、そば、パスタ、食パンを組み込むので1週間分になります」
おかずの7大レギュラーは99円の鯖の味噌煮、鰯の蒲焼きなどの缶詰、1袋29円のもやし、1個47円のコロッケ、54円のレトルトカレー、3パック68円の納豆、9個98円の餃子、8本108円のウインナーなど。
「お肉は鶏のムネ肉ばかりです、特売だと100グラム38円で買えますから。あとは100グラム78円の豚ひき肉。牛肉は2年近くも食べていませんね」
■食材費は毎日300円程度。栄養バランスや安全は二の次、三の次
食事は質素の一言に尽きる。昨日は何を食べたかというと、11時頃にブランチでご飯2膳、鰯の丸干しを1尾、ゆで卵を半個。
アルバイトに行く前にもやし3分の1袋を入れただけのインスタントラーメン、残しておいた半分のゆで卵。ラーメンスープはマグカップ1杯分残しておいた。
「夕飯は0時近くになってからで、買い置きして冷凍しておいたメンチカツ1枚とオニオンスライスに中華ドレッシングをかけた和え物、温め直したラーメンスープでした」
食材費は毎日300円程度。栄養のバランスだとか食の安全は二の次、三の次だ。
「今のところは体調不良にはなっていません。だけど安い炭水化物主体の食生活なので体重が増えています。血色も良くないし肌荒れがあるのでいい状態ではないみたいです」
倹約は食費だけでなく電気代も。
「12月に入ってからブレーカーを頻繁に落としています。冷凍庫に入っている食べ物がカッチカチに凍っているのが前提ですけど」
就寝するときにブレーカーを落とし、起床する8時頃まで通電していなくても冷凍庫の食品が溶けていることはなかった。
「夕方に出かけるときも電源をオフにします。帰るのが11時くらいなので5時間だから何の問題もありませんよ」
電源を切っている時間は毎日10~12時間。3月一杯ぐらいまで続けるつもりだ。
「以前は毎月の電気代は5500円前後だったのですが、半日近く電源を切っているので4000円かからないんです。夏は食べ物が傷むから無理ですが」
■トイレは外出時、シャワーは半開でチョロチョロ流す
暖房も朝しか使わない。在宅しているときには部屋の中でもダウンジャケットを着て腰やお腹周りにはカイロを当てている。
「水道代を浮かすためにはトイレは外出しているときに済ますようにしています。ショッピングセンター、駅、図書館で1回してから帰るようにしているんです。お風呂(ユニットバス)も節約していて、シャワーを全開で使うなんてもったいなくてできないので半開でチョロチョロ流しています」
我ながらいじましいと思うけどお金がないのだから仕方ない。
「お金がないとお洒落もできません。シャンプーやリンスはドラッグストアでもらった試供品。リップクリームは100円ショップで買ったものです」
シーズンごとに新しい服を買うこともできなくなった。
「家着はリサイクル店でしか買わなくなりました。しかも特売品だけ。ブラウスとかネルシャツは4、500円ですから。このトレーナーは去年のクリスマスに救世軍のバザーで買ったのですが、なんと300円でした。今のわたしにはユニクロやしまむらでも高級品です」
以前は行きつけの美容院でカットとシャンプー、ブローをしていたが、この1年通っているのはカットのみ980円の格安店。
「おじさん、おじいさんたちに混じって順番待ちしていると浮いた感がありますね。女性で来店しているのは中年以上ばかりだし」
1円だって無駄使いしたくないから格好悪いなんて言っていられない。
■倹約疲れと将来への不安
「でも、これは安いと思って買ったもので逆に損をすることもあります。100円ショップで下着代わりにTシャツを買ったのですが、洗濯したらもの凄く縮んでチビTみたいになっちゃったし、手洗い用の固形石鹸も溶けるのが早かった。靴のディスカウント店で買った白のデッキシューズは一度洗ったら全体的に黄ばんでしまいました」
100円ショップで食べ物を買うこともあるが、安さに釣られて買ったインスタントラーメンは揚げ油が合わなかったのか下痢をしてしまった。コンビニより安いから買ったお菓子がスーパーの方が20円安くて損をしたこともある。
「こんなことがあると倹約疲れを感じちゃいます」
同時に、何でこんなことやってるんだと自己嫌悪に陥ることもある。
「今のささやかな楽しみはアルバイトのお給料が出た日の夜にアメリカンドッグをつまみにして缶チューハイで一杯やること。一昨日も夜ドラの孤独のグルメを観ながら飲みました。主人公は健啖家で3000円ぐらいのお昼を食べていたけど、わたしの息抜きと自分へのご褒美は250円ほど。随分と差があるなあと思いました」
これから先のことに対しては不安が大きい。一番の心配はやはり金銭的なことで、早いところフルタイム、社会保険加入の仕事に就かないとまずいと焦っている。
「精神状態はいくらか回復したと思います。イライラすることはあまりなくなったし、眠れない日も減ってきていますから。早いところ社会復帰したいですね」
この先もずっとパチンコ屋の景品交換所で月11万円程度のアルバイトをやっているわけにはいかない。こんな貧乏生活では干上がってしまう。
「これ以上のブランクを作るのはまずいとも思うし」
正社員、直接雇用で新たな仕事を得たいが、それが難しいなら次善の策として派遣で働くのが現実的だと思う。
「この歳になって実家に戻り、生活の面倒をみてもらうわけにはいきませんから」
きちんと働いて生活の糧を得る。そんな当たり前のことがこんなに難しいとは思わなかった。
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ライター
1961年生まれ。都立中野工業高校卒業。ルポライターとして取材活動を続けながら、現在は不動産管理会社に勤務。2003年よりホームレス支援者、NPO関係者との交流を持ち、長引く不況の現実や深刻な格差社会の現状を知り、声なき彼らの代弁者たらんと取材活動を行う。著書に『今日、ホームレスになった』(彩図社)など多数。
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(ライター 増田 明利)
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