「宗教2世問題」とは親から子どもへの「虐待」…不倫に溺れ、宗教にハマった毒母を持つ女性が悩む「反発」と「共依存」のジレンマ
集英社オンライン / 2023年12月20日 16時1分
毒親というものは、「絶対にならない」という保証はなく、誰もがなってしまう可能性がある。自分が毒親に育てられたのではないかと感じている人にもそうでない人にも、これからの毒親との関わり方や生き方を見直すヒントになる事例を紹介する。『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』 (光文社新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
「宗教2世問題」とは、親から子どもへの「虐待問題」
子どもの頃に、両親から自己肯定感を満足に得られずに成長すると、自分を大切にできない大人になってしまうのだろうか。そして親になったとき、同じように、自分の子に自己肯定感を満足に与えられないのだろうか。
居酒屋の仕事とお客さんが第一で、家庭を顧みない父親と、その寂しさを埋めるためか、宗教にのめり込む母親のもと、ネグレクトに近いような状況で成長した現在30代の女性の事例を紹介する。
2022年7月の安倍元首相の銃撃事件は、世間が宗教2世問題に注目するきっかけとなったが、そのときに私(著者)は微かな違和感を感じた。
宗教2世は、自分の意志に関わらず、親が信仰する宗教に入信させられているケースが多い。
ある程度成長してからやめたいと思っても、宗教団体自体にやめにくいルールや空気がある場合だけでなく、その人自身の生活や人間関係、考え方などに宗教が深く根ざしていることがあるため、やめてもやめなくても宗教に悩まされ続ける宗教2世は少なくないようだ。
「宗教2世問題」とは、「虐待問題」ではないのか。新しい言葉で本質が見えにくくなっているのは、「ヤングケアラー」や「きょうだい児」なども同様だ。
さも新しい問題のように取り上げられているが、上から貼られた名札を剥がせば、どれも家庭という密室で古くから起こっている、親から子どもへの「虐待問題」に端を発しているのではないか。
そう思っていた頃に出会ったのが、中部地方出身、関西地方在住の時任和美さん(仮名・30代)だった。
関西地方の郊外にあるカフェで待ち合わせると、彼女はライトグレーのカットソーに、紺地に小花柄の涼し気なフレアスカートで現れた。明るい色に染めた鎖骨辺りまである髪を耳にかけながら、彼女は挨拶して席に座った。
母方の祖父母は男の子を女の子より優遇する、いわゆる〝長男教〟だった
(時任さんの)父方の祖父は、父親が子どもの頃に蒸発しており、祖母はそれをきっかけに宗教に入信。そのため父親も父親の兄と弟も宗教が大嫌いだった。だから時任さんの母親が宗教に入信して以降、疎遠になったのだ。
父親の幼少期のことをあまり知らない時任さんだが、父親の両親が3人兄弟の次男だった父親のことを「一番出来が悪い子」と言っていたということは知っていた。
一方、母親のきょうだいは現在、兄と姉、弟がいるが、実は母親が生まれる前、一番上に姉がいた。母方の祖父母は、長女をとても可愛がっていたらしいが、4〜5歳の頃、伊勢湾台風で亡くしてしまっている。
母方の祖父母はよほど長女を亡くしたのがショックだったのか、孫である時任さんにまで、「あの子が生きていたらなあ……」と何度も話して聞かせた。
加えて母方の祖父母は、当時としてはあまり珍しくないが、男の子を女の子より優遇する、いわゆる〝長男教〟だったようだ。
想像するに、〝長男教〟である祖父母は、男の子たちは大事に育てたのだろう。
長女が亡くなったとき、すでに生まれていた次女はそこまで比べられずに済んだが、亡くなった後に生まれた母親は、ことあるごとに亡くなった姉と比べられ、下に見られて苦しんでいたのかもしれない。
自己肯定感が低いために、不倫や宗教に流されたのかもしれない
母方の祖母によると、母親は父親と授かり婚をする前、妻子ある男性との不倫ばかり繰り返していたという。
それは、常に亡くなった姉と比べられて育った母親の、「亡くなった姉を通してしか、両親は自分を見てくれない」というやるせなさや寂しさを埋める自暴自棄な行動ではなかったか。
母方の祖母は、母親が宗教に走ったことを父親のせいにしていたが、私は父親ばかりのせいとは思えない。
株式会社 LITALICOの「りたりこ発達ナビ」によると、「幼少期に養育者との愛着が上手く形成されなかったことによって問題が生じる状態」を、「愛着障害」と言うが、愛着障害に気が付かず大人になった場合、日常生活や仕事において、困難や苦しさ・ストレスを感じる場合が見られるという。
例えば情緒面においては、「思考が100か0かになりやすい」とあり、対人関係においては、「ほど良い距離感がわからない」「パートナーと情緒的な関係を築くことが困難に感じる」「親の期待に応えられないときに必要以上に自分を責める」などの特徴がある。
時任さんによれば、母親には親しい友人がいないという。母親は「愛着障害」だったため、他人とほど良い関係を築くことが難しかったのではないか。
さらに、アイデンティティの確立においては、
・自分自身で決断できない
・選択に対する満足度が低い
・自身に対して否定的になる
という特徴があり、自己肯定感が低いために、母親が不倫や宗教に流されて生きてきた要因が浮き彫りになってくる。
もしかしたら、子どもの頃に父親が蒸発し、母親が宗教にのめり込み、「一番出来が悪い子」と言われて育った時任さんの父親も、母親と同じ「愛着障害」だったのかもしれない。
母親を反面教師にすることに、こだわりすぎている
現在時任さんは、看護師の仕事を続けながら、4歳と1歳の男児を育てている。
「自分が子どもの頃は、母や教団の大人に合わせた退屈な空間で過ごすことが多かったので、できるだけ子どもの遊びに付き合ったり、『近所にお友だちを作ってあげよう』と思って私もママ友を作ったり、子どもが好きそうな場所に出かけたりして、『子どもの時間を大切にしてあげたい』と考えて育児をしています。
母のことは反面教師としてかなり意識していて、母にはやってもらえなかった〝子ども中心〟の生活を送るように心がけています」
次の3月で奨学金の返済が終わり、自分たちが小学生の頃、毎日家に親がいなくて寂しい思いをしていた時任さんは、長男の小学校入学に合わせて現在勤めている病院を退職し、パートをするための準備をしている。
「先日、妹に『お姉ちゃんって、〝普通の家庭〟を求めてるよね?』と言われて、『そうかも……』と思いました。
私は子どもの頃、母から遊んでもらえなかったという記憶があまりにも強くて、『子どもには同じ思いをさせたくない』と思い、仕事よりも家事よりも、何よりも子どもを優先しています。それが妹には、違和感に感じたようです」
母親を反面教師にすることに、こだわりすぎているのかもしれない。
「確かに、少し前、いい食材を使って、ちょっと手間暇かけて料理することに夢中になっていた時期があるのですが、子どもに『遊ぼう』って言われても料理に没頭している自分にはっと気付いて、『やばいやばい、これでは母と一緒だ』と思ってやめました。
また別のときは、ある資格を取るために勉強を始めたのですが、やっぱり、『このままでは家庭をおろそかにしてしまう。家族を邪魔だと思ってしまう』と思ってやめました。
私が宗教に走る可能性はありませんが、私も母のように周りが見えなくなるほど没頭してしまうクセはあるのだと気付きましたね」
「母親のようになりたくない」
自分も母親のように、「毒親になってしまうのではないか」という恐怖があるのだろうか。
「恐怖と言うか、〝自分の人生を生きちゃいけない〟という呪いにかかっているような気がします。自分だけが楽しむ時間を作れないのです。
『私は母親だから、とりあえず今は子どもを優先にするべきで、自分のことは後回しにしなければ』って思ってしまいます」
おそらく、毒親でもなく、共依存もない母親なら、「自分の人生は自分のもの。子どもの人生は子どものもの」として、臨機応変に対応できるだろう。少なくとも、子どもが目の前にいないときまで、自分の行動を制限するのは頑なすぎる。
「両親から可愛がってもらった記憶はほとんどない」と話す一方、明るく活発な性格で、友だちが多いという時任さん自身は、取材時には自己肯定感が低いようには見えなかった。
だが、改めて振り返ってみると、「〝自分の人生を生きちゃいけない〟という呪いにかかっているような気がする」と言うように、自身に対して無意識に否定的で、「母親のようになりたくない」「子どもに自分のような思いをさせたくない」と頑張りすぎてしまっているという点で、やはり自己肯定感が低く、母親との共依存傾向にあるのではないかと思われた。
共依存から逃れるためには、誰か1人とか、何かひとつだけでなく、なるべく複数の人とつながり、いろいろな何かに興味を持つことが重要と考える。
ダーツの的を想像してほしい。
円の中心に自分がいるとしたら、そのすぐ外側には、自分を取り囲むように、両親や配偶者のような、自分にとって最も大切な人がいる。さらにその外側には、親友や祖父母、きょうだいなどがいて、そのまた外側には、友人知人……と、自分と適切な距離を保ちながら、幾重にも取り囲む形で、何人もの味方を持つことが対策となるように思う。
〝誰か1人〟とか、〝何かひとつ〟にこだわってしまうと、それを失ったときのショックが大きい。
「自分をバランス良く保つこと=毒親にならないこと」とすれば、自分の味方を増やし、バランス良く配置することが、毒親にならないための有効なヒントではないだろうか。
文/旦木瑞穂 写真/shutterstock
『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』 (光文社新書)
旦木 瑞穂 (著)
2023/12/13
¥1,100
344ページ
978-4334101695
理不尽な仕打ち、教育虐待、ネグレクト……。子どもを自らの所有物のように扱い、生きづらさなどの負の影響を与える「毒親」。その中でも目に見える形ではなく、精神的で不可視なケースが多い「毒母と娘」の関係にフォーカスし、その毒への向き合い方とヒントを探る。毒母に育てられ、自らもまた毒母になってしまった事例など、現代社会が強いる「家庭という密室」の闇に、8人の取材から迫る。
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