医師会VS財務省「診療所の良好な経営」巡る対立 私たちの日々の暮らしにどう影響を及ぼすか
東洋経済オンライン / 2023年12月12日 7時30分
あれ、去年よりけっこう上がってる――。給与明細を見て感じることはないだろうか。残念ながら、それは給与の金額ではなく、社会保険料の話だ。なぜこんなに年々、金額が上がり負担が増えていくのか。社会保険料と関係の深い診療報酬の改定を巡る医師会と財務省の対立から、その問題を考えてみたい。
「今日は非常に自分の心が強いので、赤いネクタイを締めてまいりました」
11月22日、そう怒りをあらわにして定例会見に臨んだのは、日本医師会(以下、日医)の松本吉郎会長。会見では、2日前の11月20日に財務省の財政制度等審議会(以下、財政審)が公表した「令和6年度 予算の編成等に関する建議」(以下、建議)に対する異論を展開した。
財務省は報酬の引き下げを提案
この建議は、来年度の予算編成や財政運営の指針を示したもので、地方財政や防衛など、11の分野において具体的な取り組みや要望が紹介されている。その1つが社会保障で、少子化対策や報酬改定(医療・介護・障害)がある。
財政審はこの中で、高齢化などによる国民の保険料の負担率の上昇に歯止めをかけることが必要とし、「診療所の報酬単価を5.5%程度引き下げること」などを提案してきたのだ。
報酬を下げる根拠については後述するが、「診療所の経常利益率が高いので、全産業やサービス産業と同程度にまで報酬単価を引き下げる」というのが財務省の見解だ。
これには日医も黙ってはいられない。
松本会長は記者会見で、「コロナ対応で利益が上がったから報酬削減というのは、災害対応で残業や手当が増えたから、その分賃下げするのとまったく同じ主張」「診療所も中小零細企業であり、物価高騰や賃上げ上昇を価格に転嫁できず苦しんでいる」と強い口調で反論した。
ここで少し社会保障と診療報酬についてみていきたい。
私たちが支払っている(給料から天引きされている)社会保険料は、大きく健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の3つに分けられ、それぞれ医療や介護、年金の財源となっている。
医療費はこの健康保険料と税金、そして治療を受けたときに支払う自己負担率(1~3割)から成り立っており、具体的には、保険料負担が約24兆円(49.5%)、税金負担が約18兆円(36.8%)、患者の自己負担が約7兆円(13.6%)という比率だ。
医療費はまた、診療報酬という医療行為ごとに決められた点数(1点10円)によって支払われている。例えば、初診料は288点、再診料は78点といった具合で、そこに条件によって加算が付く。医療機関はこの診療報酬によって収入を得ているわけだ。
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