岩手県が絶滅危惧種イヌワシの生息地を公開の訳 巨大風車群の建設ラッシュ対策で練りだした秘策
東洋経済オンライン / 2024年4月1日 12時10分
巨大風車群の建設ラッシュに見舞われている岩手県が秘策を繰り出した。3月27日、絶滅危惧種のイヌワシが生息するエリアをレッドゾーンとして示した1キロ四方のメッシュ地図を公表した。「環境と共生した陸上風力発電事業の導入促進」をうたう。
その心は「このエリアでの風車建設を回避して」。通常、希少動物の詳細な生息情報は非公開にするが、あえて生息エリア公開に踏み切った。全国初の試みは、果たして吉と出るか、凶と出るか。
レッドゾーンとイエローゾーンの意味
岩手県の秘策の正式名称は、「陸上風力発電所の立地選定に関する基準」。県内全域をレッドゾーン、イエローゾーン、グレーゾーンに区分し、1キロ四方のメッシュ図で明示した。レッドゾーンは「原則として立地を避けるべき区域」で、営巣地はわからないようにしてあるが、草原や牧草地などの餌場やよく飛来する場所も含まれ、生息圏をギリギリ守れるように設定されている。事業者に対し、レッドゾーンへの風車建設を避けるよう求める。
また、イエローゾーンは「立地による影響を低減すべき区域」で、もしもイエローゾーンに風車を建てる場合は、環境アセスメントをしっかり行うことにより、影響を軽減するように求める。グレーゾーンは、その他の区域で、「立地による影響を確認し、風力発電との両立を図るべき区域」だ。
環境省は風力発電事業者が計画を立てる際に鳥類の生息状況を把握し、事業計画に反映できるよう、「鳥類のセンシティビティマップ」を作成している。
だが、環境アセスメントデータベース(EADAS)で公開しているイヌワシの「センシティビティマップ(生息分布マップ)」は、10キロメッシュ。これに対し、岩手県の1キロメッシュのレッドゾーン図は、より絞り込んだ区域を示した。
イヌワシなど希少野生動物の詳しい生息情報は、通常、明示されない。写真を撮りたい人たちが押し寄せるなど、動物の繁殖や生息を脅かす事態を招く可能性があるからだ。しかし、そうも言っていられなくなった。岩手県が2024年2月末でまとめた表「風力発電所の環境影響評価手続きの実施状況」によると、同県内で国の環境影響評価法に基づき手続き中の風力発電事業は計35事業、総出力計378万7150kWにのぼる。
2022年度に環境アセス手続きを始めた事業だけでも8件に上った。県の環境影響評価技術審査会で、イヌワシの生息地への配慮を求める委員側と、「配慮をするかどうかは、自分たちで調査を行って決める」と主張する事業者側が押し問答をする場面も見られた。
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