TVマン見た「絶滅危惧種と暮す民族」驚く日常(前) インドと中国の境界線「最果ての村」を目指す
東洋経済オンライン / 2024年4月27日 8時0分
その風貌は、いつか写真で見た「戦前の日本人女性」のようだ。
真っ黒に日焼けした顔に、もう少し、厳しさとたくましさを加えたような感じ。自然を相手にしている農民や漁師たちに宿る、人間本来のナチュラルな美しさが滲み出た、とてもいい表情をしている。
バスの内装は相当古びていて、モスグリーンの塗装が施されているが、老朽化のせいで所々ペンキがはがれ、鉄が剥き出しになっていた。
まるで、映画で見たアメリカの刑務所の囚人輸送バスを彷彿とさせる。
だが、その中には小さな子どもや若い母親、そして、その親子を見守る年配の人々が存在し、優しさと温もりが漂っている。
無機質な鉄とチベットの女性たちが、絶妙な調和を見せ、異国情緒を一層際立たせていた。
トイレがなく、森の中で用をたす
1時間ほど進んだところで、10分間のトイレ休憩があった。ダバと呼ばれる小さな食堂でバスを降りる。
しかし、探してもトイレはない。北インドの長距離バスではよくあるのだが、トイレがなく、森の中で用をたすのだ。
大便をするときは、ペットボトルの水を使い、左手でお尻を洗う。初めは戸惑ったが、インド縦断の長旅で、その技はすでに体得済みだ。
すると、随分と時間が経ってから、カナさんが険しい表情を見せ、こちらに戻ってきた。
「遅かったね」
「ここ、砂漠地帯だから、隠れる木がないんですよね。ダバの窓から視線を感じたんで、死角を探していたんですけど、ないんですよ。女性用に”ついたて”か何か用意してくれればいいのに」
標高が4000m近いこの場所では森のような木々は育たない。しかも、スピティは寒冷砂漠エリア。緑があっても、高木は見当たらない。
カナさんの表情から察するに、覗き見しようとした男に相当怒っているようだ。
それにしても、チベットの女性たちは、いつもどうしているんだろうか? 若い女性なら、同じ感覚を持っているはずだが。
酸素の薄い高地で置き去りのピンチ
「あ、ごっつさん、バスが出発している」
「やべー、本当だ」
2人は大声をあげ、手を振りながら、発車したバスを追いかけた。こんな辺ぴな場所で置き去りにされたら大変だ。
10mくらい進んだところで運転手が気づき、止まってくれた。酸素が薄い高地で猛ダッシュしたので、肺が悲鳴をあげている。
「はぁ、はぁ、インドと違って、定刻通りなんですね」
「はぁ、はぁ、多分、乗客の誰かが気づいてくれたんだよ」
やはり、このエリアでは時間を守る習慣が根付いているようだ。
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