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アングル:コロナでミスマッチ顕在化、鈍い日本の人材シフト

ロイター / 2021年7月6日 15時20分

 7月6日、新型コロナウイルスは日本の雇用流動性の低さを浮き彫りにした。都内 で2020年11月撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)

金子かおり

[東京 6日 ロイター] - 新型コロナウイルスは日本の雇用流動性の低さを浮き彫りにした。打撃を受けた業種で人員に余剰感が出る一方、人手が足りない業種への労働移動は鈍い。政府は転職・就業支援策を拡充しているものの、必ずしもマッチングがうまくいっていないケースもある。専門家からは失業者をなるべく抑えようとする政府の施策が流動化を阻害しているとの指摘もあり、今後、成長産業へ人材シフトを進める上で課題となりそうだ。

<求職者と企業のニーズ>

アパレル会社に長年勤めていた50代の男性は、昨年10月に離職した。鉄道の車内販売に従事していた20代の女性は、7年勤務した会社を今年3月に退職した。

いずれもコロナの影響が直撃した業種だ。アパレル業界は外出制限で仕事着も普段着も需要が落ち込み、運輸業界は出張者や観光客の利用が激減した。東京商工リサーチによると、今年に入って希望退職を募集した上場企業は6月3日時点で50社。アパレルが8社と最多となった。運送は4社だが、観光と合わせると8社になる。

2人は現在、国が支援する職業訓練校で建築関連の講座を受けている。男性は宅地建物取引士を取得して不動産業界へ、女性は住宅業界への転職を目指している。

「家のローンなどがあるので、(失業)給付を受けながら学費免除で授業を受講する期間が半年あると次の転職を考える上で大変ありがたい」と、男性は語る。

総務省の労働力調査によると、5月の完全失業者は211万人。前年比で13万人増え、16カ月連続で増加した。コロナ禍で雇用の厳しさが増す中、国は受講条件を緩和するなどしてこうした転職支援制度を拡充している。人手が余った業種から足りない業種へ、労働移動を促す狙いだ。国が支援する訓練校の就職率は8割に達する。

しかし、労働市場全体で見ると移動が進んでいるとは言い難い。労働力調査では1─3月期の平均失業者214万人のうち、約30%が仕事につけない理由として「希望する種類・内容の仕事がない」と回答した。コロナ禍前の20%後半から上昇傾向が続いており、雇用のミスマッチが広がっていることがうかがえる。2020年の転職者平均は319万人で、過去最高を記録したコロナ禍前の19年から32万人減った。

東京都が行う職業訓練は、機械や電気関連の科目は受講生の定員割れが目立つが、企業からの求人は多いという。担当者は、ハローワークなどへの周知活動を行っているが、危険を伴うというイメージなどもあり希望者が少ないと語る。

都が委託する民間の訓練校では、財務関連の応募希望者がコロナ禍で「輪をかけて増えている」(学校の担当者)ものの、就職率は50%程度だ。事務系の仕事を希望する人は増えているが、必ずしも就職に結びついていない状況だ。

厚労省の担当者「産業界や地域から求められる人材ニーズに即した訓練コースの設定や訓練カリキュラムの内容改善に努めていきたい」と話す。

<人手が足りない他社へ出向>

政府は失業を抑えながら流動性を高める試みも支援している。人手の余る企業から足りない企業へ、雇用を維持したまま出向させる「在籍型出向」に助成金を支給し始めた。出向元の企業にとっては、いずれ需要が戻ったときに備えて人材を確保したまま、足元の過剰雇用をしのぐメリットがある。

空港で地上支援サービスを行うスイスポートジャパンは社員約1200名のうち、物流や製造業などに300名以上を出向させている。コロナ後を見据える同社の武智聡社長は「人を解雇し、また採用すればいいという考えは通用しない」と話す。

出向者、受け入れ先からもおおむね好評だ。同社で研修などを担当していた大橋光莉さん(28才)は、5月から会員制量販店コストコの店舗で働いており、不安を感じないよう接してもらった経験は、元の職場に戻った時に新人への対応に生かせると話す。コストコホールセールジャパンの中川裕子人事・マーケティング部長は、人材を確保でき、既存社員の刺激にもなると語る。

厚労省が助成金を2月に導入して以降、利用者は6月中旬までに4800人を超えた。しかし、確保した予算580億円の1割強にとどまっており、利用はまだ広がっていない。

<グリーンとデジタル人材>

「グリーン」と「デジタル」。政府はこの新たな2つの分野で経済成長を目指している。6月にまとめた骨太方針には、産業構造の転換に向けて「人材への投資と円滑な労働移動を強力に進める」と盛り込んだ。

本格的な施策はこれからだが、「根本的には流動性は高まっていない」と、明治大学公共政策大学院の田中秀明専任教授は言う。「本来であれば、競争力のない会社は退出してもらい、それに伴い働いている人がより競争力のある会社に移っていくということを支援する仕組みが必要」と語る。

コロナ禍が始まって以降、政府は休業者手当ての一部を補てんする雇用調整助成金など、倒産や失業者を抑制する政策に軸足を置いてきた。失業者よりも休業者が増え、倒産件数が低く抑えられる主因となった。

「雇調金の特例措置は必要悪。あまり長くやるのはよくないが、すぐになくすわけにはいかない」と、日本総研調査部の山田久副理事長は言う。その一方で、「次の労働移動につながるような攻めの政策はまだまだ弱い」とし、産業構造の変化を見据え、安定した職に就けるよう政策をシフトしていく必要があると指摘する。

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