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アングル:モーリシャスの生態系に重大な危機、重油流出の衝撃

ロイター / 2020年8月14日 13時56分

8月13日、インド洋の島国・モーリシャスの周囲には、数世紀を生き抜いてきたサンゴ礁がある。それが今、座礁した日本の貨物船から流出した重油によって何日間も窒息状態にあり、一部は危機にひんしている。写真はわかしおから流出した油が浮かぶマングローブ林の海岸。ドローン画像(2020年 ロイター/Reuben Pillay)

[ナイロビ 13日 ロイター] - インド洋の島国・モーリシャスの周囲には、数世紀を生き抜いてきたサンゴ礁がある。それが今、座礁した日本の貨物船から流出した重油によって何日間も窒息状態にあり、一部は危機にひんしている。

科学者らは、重油流出による影響の全体像について、まだ見通せないと語る。重油やその塊の除去に奮闘するモーリシャスの住民らは、海中に浮かぶ死んだウナギや魚を目にしている。海岸には、油まみれの海鳥が足を引きずりながらはい上がってくる。

衛星画像を見ると、事故現場となり、ターコイズブルーの海が広がるブルーベイ海洋公園から、重油1000トンが海岸に沿うように北へと流れ出している様子が分かる。

観光に依存するモーリシャスの経済にとって、この事故は今後何十年にもわたって影響を及ぼしかねない、と科学者は言う。

モーリシャスで事故調査に当たる海洋学者のVassen Kauppaymuthoo氏は、ロイターの電話取材に対し「重油流出が起こったのは、影響の大きさという点でモーリシャスにとって非常に重要な海域だ」と言う。「被害からの回復には何十年も要するとみられ、中には二度と元に戻らないものもあるかもしれない」と指摘する。

危機にさらされている海洋生物は、浅瀬を覆う海藻、サンゴ礁を泳ぎ回るクマノミ、海岸を囲うように根を絡ませるマングローブ林、そしてモーリシャスの固有種で絶滅が危惧されるモモイロバトなどだ。

事故現場近くの小島・エグレット島の自然保護区は、巨大なウミガメがゆっくりと歩く島で、科学調査基地もある。ブルーベイ海洋公園全体でサンゴは38種類、魚類は78種を数える。

重油流出事故は「生態系に甚大なショックをもたらす」と語るのは、モーリシャス出身で英キール大学の講師を務める環境科学者のアダム・ムールナ氏。「油は、生命のネットワーク全体に連鎖的な影響をもたらすだろう」──。

<封じ込めできず>

重油は7月25日に海洋公園で座礁した日本の貨物船「わかしお」から流出した。なぜ、これほど海岸に近い場所を航行していたのかは、未だ不明。座礁から約1週間後、破損した船体から重油が流出し始めた。

ただ、当局者らによると、船内の油抜き取りを終えた後の流出は止まっている。

貨物船を保有・管理する長鋪(ながしき)汽船(岡山県)は13日、賠償に応じると表明した。

モーリシャス海洋保護協会のジャクリーヌ・ソージエ会長によると、影響を受けた海岸線は既に約15キロメートルに及ぶ。ソージエ氏はロイターに対し「われわれには重油除去の設備も専門知識もなく、被害を抑えるのは時間との勝負だ」と述べた。

地元住民は無防備な姿で有毒に汚染された海に入り、髪の毛やサトウキビ処理工場から出たキビのさやなどを使い、できる限りの油を急いで吸い取ろうと努めている。

環境毒物学者のクレイグ・ダウンズ氏は、人々と野生生物に「今後10年から20年、相互作用的な影響が出てくるだろう」と語った。

<悪循環>

真っ先に被害が及ぶのはサンゴ礁と魚だろう。観光業と漁業が経済を支えるモーリシャスにとって、とりわけ厳しい事態だ。

専門家によると、今生き残っているサンゴも、海洋熱波への抵抗力が衰えている可能性がある。海洋熱波は気候変動の結果、この海域を襲うようになっており、一部で既にサンゴ白化現象を引き起こしている。

これ以上、そうした状態が続けば、サンゴ礁の将来は非常に暗くなると専門家は懸念する。

マングローブ林への影響も懸念されている。マングローブの根は幼魚を育む場所を提供している。

英エクスター大学の海洋保護教授、カラム・ロバーツ氏は、重油がマングローブ周辺の堆積物の中にも沈殿し、カニや軟体動物や稚魚を窒息させる可能性があると指摘。「いったん堆積物の中に沈殿すれば、除去は非常に難しい。樹木は病気になって死ぬかもしれない」と言う。

マングローブに巣を作ったり、近くの干潟から飛び立ったりする渡り鳥も悪影響を受けやすい。重油を摂取したりしてしまった鳥は病気に弱くなり、飛べなくなる恐れすらあると、専門家は言う。

マングローブと同じく、大量の二酸化炭素を吸収する海藻は、海岸を波から守る上で不可欠の役割を果たしている。

また、陸地では打ち上げられた油が固まり、永続的な変化をもたらす恐れがある。

2010年のメキシコ湾岸原油流出事故のその後を研究した米ルイジアナ州大学の環境科学者、ラルフ・ポーティエ氏は「長期的には油はたまり、そこで散ったり劣化したりすることで、海岸がアスファルトのようになる可能性がある」と説明。 「悲劇そのものだ」と語った。

(Duncan Miriri記者、Omar Mohammed記者、Matthew Green記者)

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