アングル:バイデン政権も中国軍関連の投資禁止か、市場は覚悟
ロイター / 2021年1月18日 17時50分
1月15日、 金融業界は、トランプ米大統領が打ち出した中国軍関連企業への投資禁止措置について、政権交代後も長期間存続することを覚悟している。ニューヨーク証券取引所で2020年12月撮影’(2021年 ロイター/Jeenah Moon)
[ニューヨーク/ボストン/香港 15日 ロイター] - 金融業界は、トランプ米大統領が打ち出した中国軍関連企業への投資禁止措置について、政権交代後も長期間存続することを覚悟している。ただせめてバイデン次期大統領が、もっとルールを分かりやすくしてほしいというのが彼らの本音だ。
トランプ氏が発した大統領令は、「中国の軍」とつながりがあるとみなした44社の証券から米国の投資家が完全に手を引くよう求める。
ところがこれまでに大統領命令の内容は再三修正され、さまざまに解釈できる指針を複数の連邦政府機関が公表したため、アジア市場を動揺させた。結果的に金融機関が投資禁止の対象となる可能性のある銘柄を前もって傘下のファンドから外す動きが広がったほか、資産運用会社も保有銘柄を安値で投げ売りすることを強いられた。
投資禁止が実際に効力を発するのはバイデン氏が大統領に就任した後になる。このため、同氏がどう対応するかが注目を集めているが、すぐに命令が撤回される公算は乏しい。その意味で中国の巨大な市場と経済へのアクセスがさらに制限されてしまうとの懸念が投資家の間でくすぶっている。
一方、投資禁止命令を巡るトランプ政権側の混乱は、対中政策についての内部の深刻な意見対立に起因している面がある。米政府の現役ないし元当局者によると、ムニューシン財務長官は中国に対してよりハト派的な姿勢だとみなされるのに対して、国務省の態度は強硬だからだ。
セージ・キャピタルのフランクリン・チュー社長は「(投資禁止が)すぐに劇的に修正されそうにはない。現在の政治状況がバイデン氏にそうした修正を許さないだろうというのが唯一の理由だ」と話す。
ロイターが取材した6-7人の専門家も全て同じ意見だった。米取引プラットフォーム大手の経営幹部は「投資禁止命令が長らく残るという前提で事態が進んでいる」と述べ、別の関係者も、バイデン氏が早期に投資禁止を撤回したり、大幅に緩和したりすることに3つの米銀が懐疑的になっていると明かした。
複数の業界幹部は、新型コロナウイルス感染者が増加を続け、米景気回復の勢いが弱く、議会では与野党とも中国への強硬姿勢を支持している中で、中国の軍事力拡大を抑える目的で導入された投資禁止を取り下げることが優先課題になるとは思われないとの見方を示した。
米国に拠点を置くコンサルティング会社チャイナ・ベージュブックのレランド・ミラー最高経営責任者(CEO)は「バイデン次期政権が早々に、中国に対して弱腰と受け取られてしまう政治的措置を実行する確率は極めて小さい」と言い切った。
<むだな騒ぎ>
ニューヨーク証券取引所(NYSE)が、いったん進めていた中国通信3社の上場廃止手続きの中止を表明した後、ムニューシン氏が異議を唱えると再び上場廃止に方向転換したことからも、投資禁止ルールを巡る混乱ぶりがよく分かる。
米財務省はルール明確化のため、今月14日に米国の証券取引所向けに、新たにブラックリスト対象となった中国企業についてはリスト掲載日から1年間、一切の売買禁止の適用は免除すると表明した。
それでもアイビー・インベストメンツ・オブ・カンザスシティーのダン・ハンソン最高投資責任者は、この問題に関してルールは幾度も変更され、投資業界はかなり場当たり的と受け取めつつも、仕方なく右往左往せざるを得なくなっていたと指摘。次期政権になって行政上のむだな騒ぎが収まるのを願うと述べた。
ある米証券取引所幹部も、バイデン氏から「より適切な指針が出されると自分が期待しているのは間違いない」と語った。
トランプ政権が、アリババとバイドゥ(百度)、テンセント(騰訊控股)も投資禁止にすることを検討して、結局対象に追加しなかったのは投資家にとって一安心だったとはいえ、今後も対象とならないかどうか不透明感は残ったままだ。
TCWグループのマネジングディレクター、デービッド・ロービンガー氏は「そうした不透明感があるため、投資家はまだ売れるうちに売ることを余儀なくされている」と解説する。
ルールが混乱した中で、香港では大手上場投資信託(ETF)の1つが13日、投資禁止対象となった銘柄の購入を再開した。理由は、このETFも運営主体のステート・ストリート・グローバル・アジアも、投資禁止を命じられた「米国人」に該当しないというものだ。いったん購入停止を発表して2日後の再開発表だった。こうした曲折は、一連のルール解釈の難しさを浮き彫りにしている。
実際多くの投資家は、ルールがもっと明確になるまで、少しでも支障があるかもしれない証券への投資は避けると口をそろえる。
リア・インベストメント・マネジメントのマネジングディレクター、ジム・ワーナー氏は「ここは、(投資禁止の)基本原則が把握できるようになるまで、手を出さない方が得策な領域だ」と述べた。
(John McCrank記者、Ross Kerber記者、 Alun John記者)
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