焦点:中国の新エネ車政策、「クレジット制度」でメーカーを後押し
ロイター / 2021年4月22日 16時20分
4月19日、中国政府は、国内自動車メーカーに対して新エネルギー車(NEV)の生産・開発を加速するか、さもなければテスラや国内の電気自動車(EV)のスタートアップ企業に「代価」を支払うようプレッシャーを強める方向に政策のかじを切りつつある。写真はフォルクスワーゲン車の内部、18日に上海の自動車ショーで撮影(2021年 ロイター/Aly Song)
[上海 19日 ロイター] - 中国政府は、国内自動車メーカーに対して新エネルギー車(NEV)の生産・開発を加速するか、さもなければテスラや国内の電気自動車(EV)のスタートアップ企業に「代価」を支払うようプレッシャーを強める方向に政策のかじを切りつつある。
この10年間に業界屈指の企業を多数生み出してきた補助金政策を打ち切り、いわゆる「NEVクレジット制度」の拡充に乗り出しているのだ。
同制度は、温室効果ガス排出量が相対的に多い内燃自動車の生産台数に応じてEVを含めたNEVの生産を義務付け、NEV販売に積極的なメーカーを評価する仕組み。NEVの生産台数や燃費などが一定基準に達しない場合、基準を上回った競合相手からその「プラスクレジット」を買い取らなければならない。
ただ、政府の動きが非常に急速なため、一部の世界的な大手メーカーや国有メーカーは不意を突かれた格好となっている。
例えば、独フォルクスワーゲン(VW)が昨年にこのクレジット制度のコストを具体的に算定し始めたのは、年間基準を順守するにはさらなる上積みが必要だと幹部が気づいてからだ。事情に詳しい関係者が明らかにした。
EV市場で世界を主導することを目指すVWだが、現実には中国国有の第一汽車との合弁会社のために、テスラからクレジット購入を余儀なくされた。
VWと第一汽車の合弁会社は昨年の販売実績が216万台で、ガソリンエンジンを搭載したスポーツタイプ多目的車(SUV)モデルが人気を集めたため、2019年のマイナスクレジット幅(コスト計上が必要)が最大になった。VWはロイターの取材に「戦略的に自力での基準達成を目標としている」とし、必要であればクレジットを購入すると述べ、それ以上のコメントを拒否した。
中国の工業情報化省が公表したクレジットに関する2020年分の暫定データによると、17年に導入されたNEVクレジット制度は昨年になって燃費基準が大幅に強化され、多くのメーカーが達成できなかった。
海通国際のアナリスト、シ・ジ氏は、中国の昨年のEV販売台数は政策当局者の想定に届かず、全体としてマイナスのクレジットが発生したと指摘。「われわれはガソリン車販売が多いメーカー各社に対して、電動化加速を提言している」と述べた。
国有の長安汽車の朱華龍会長は今年1月、主要な6つの国有自動車グループは全てクレジット制度の基準達成が難航していると説明した。朱氏が国際会議で明らかにしたところでは、米フォード・モーターと合弁会社を経営する長安汽車は、必要なクレジットの購入や採算性の乏しいEVの販売で、1台当たり4000元(611.86ドル)の損失が出ている。
<補助金を半導体に使いたい財政省>
今年に入って規則の見直しに着手した規制当局は、クレジット制度でEVとみなされる基準を引き上げ、EVの電力効率などでの新基準も導入。事情に詳しい関係者は、政策当局者がクレジット制度のさらなる強化を検討しており、年内に商用車向けの規則が発表される見通しだと話した。
当局者の発言や、政策議論を知る関係者の取材に基づくと、こうした政策変更を主導しているのは財政省で、彼らは政府資金を半導体など他の産業にシフトしたいと考えている。
財政省と工業情報化省は、コメント要請に応じなかった。
確かにこれまでは補助金のおかげで、比亜迪(BYD)や上海蔚来汽車(NIO)など中国のEVメーカーの多くは、製品を改善し、販売を拡大。EV関連のサプライヤーの台頭にもつながった。寧徳時代新能源科技(CATL)は世界最大手のバッテリーメーカーとなり、パナソニックやLG化学など従来の有力メーカーと競っている。
ただ、複数の関係筋は、中国政府はクレジット制度によって今後のEV市場における中国の主導的地位が強固になることを期待していると明かした。クレジット取引は、EVの開発が遅れているメーカーをEVのスタートアップ企業支援に回す役割を果たすと想定されている。
工業情報化省によると、中国で最大のプラスクレジットを生み出しているのはテスラだ。同社は昨年、世界全体でクレジット販売収入が15億8000万ドルに達した。
一方、クレジット基準到達の圧力にさらされているのは、吉利汽車、ゼネラル・モーターズ(GM)と上海汽車(SAIC)の合弁会社、ダイムラーと北京汽車(BAIC)の合弁会社、VWとSAICの合弁会社などだ。
吉利汽車、ダイムラー、GMはロイターに、異なる合弁会社同士でクレジットを管理し、これから数年のうちにEVのラインナップを拡充して基準を達成すると説明した。
吉利汽車の安聡慧社長は、同グループは過去数年分のクレジットの繰り越しと新型EVによって基準に届いたので、グループ外企業からクレジットを購入する計画はないと断言した。
ダイムラーとGMは、いずれも中国でEVの車種を拡充する計画だと表明している。
(Yilei Sun 記者、Tony Munroe記者)
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