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焦点:「ハクティビスト」新世代、自在なサイバー活動は善か悪か

ロイター / 2021年3月30日 10時27分

 3月25日、米国の政府機関や数多くの企業がロシアや中国からとみられる大掛かりなサイバー攻撃を懸命に撃退しようとしている今、まったく別のサイバー空間の「脅威」が再び台頭しつつある。写真はサイバー活動のイメージ写真。2017年5月撮影(2021年 ロイター/Kacper Pempel)

[25日 ロイター] - 米国の政府機関や数多くの企業がロシアや中国からとみられる大掛かりなサイバー攻撃を懸命に撃退しようとしている今、まったく別のサイバー空間の「脅威」が再び台頭しつつある。ハッキング手段を通じて政治的な意思表示を狙う活動家(アクティビスト)集団、いわゆる「ハクティビスト」だ。

初期のハクティビスト活動は2010年代初め、「アノニマス」と呼ばれる集団によって有名になった。当局の締め付けでいったん下火になったが、最近、新世代が参集している。多くはサイバーセキュリティーの世界がどう牛耳られているかに義憤を感じたり、政治的プロパガンダの拡散に巨大IT企業が果たしている役割に驚いたりしている若者世代だ。耳目を集めた最近の3つのハッキング事例で、威力をまざまざと見せつけている。

1つは、新興企業「ヴェルカダ」の人工知能(AI)型監視カメラメーカーの画像リーク。2つめは1月6日に起きた米連邦議事堂襲撃事件の直後、侵入者特定の証拠となった襲撃の動画を右派のSNS「パーラー」から頂戴したことだ。さらに、ミャンマーでクーデターを起こした国軍のハイテク監視の仕組みもすっぱ抜いた。

当局はハクティビストの復活を警戒すべき事態とみなしている。これは米政府の対応からも明らかだ。ヴェルカダのシステム侵入をやり遂げたスイス人のソフトウエア開発者ティリー・コットマン被告(21)は先週、謀略の容疑で訴追された。ワシントン州西部地区のゴーマン検事長代理は「いくら利他的を装う動機で身を包んでみたところで、不正侵入や窃取、詐欺といった犯罪の悪臭は消し去れない」と批判した。

米当局が1年前に公表した防諜戦略に関する文書は、「ハクティビスト」や「リークティビスト」といったイデオロギー的な動機を持つ集団や、「情報を不正に暴露する組織」を、5つの国や3つのテロ団体、多国籍犯罪組織と並ぶ「著しい脅威」と見なしている。

<アノニマス再登場>

かつてのアノニマスのメンバーも活動を再開しつつある。たとえばオーブリー・コトル氏。同氏は昨年、「黒人の命は大事」運動を応援することで、ツイッター上でのアノニマスの存在感を再び高めた。アノニマスの参加者たちは、テキサス州のダラス警察がデモ参加者の動きについての「苦情」を集めるため公開していたアプリに大挙して押しかけ、事実上、機能を不能にしたり、警察支持者が広めようとしたツイッターのハッシュタグを乗っ取ったりしたことで注目を呼んだ。

マクギル大学(モントリオール)の人類学者でアノニマスについての著作があるガブリエラ・コールマン氏は「(ともに右派ユーザーに人気の)パーラーのアーカイブやGabへのハッキングや暴露が続いていることで興味深いのは、そうしたハクティビストが反人種差別や反ファシズムの政治運動を支援していることだ」と話す。

Gabも白人至上主義者などの極右集団が好んで利用。ハクティビストに攻撃された後に、一時閉鎖を余儀なくされた。

<新たな標的はQアノン>

コトル氏が直近で標的としているのは、陰謀論集団「Qアノン」やヘイト(憎悪)集団だ。同氏によると、Qアノンはアノニマス的な手法を取り入れ、アノニマスに一体化させようとしている。「堪忍袋の緒が切れた」と話す同氏は、「Q」として知られる人物が投稿してきた掲示板「8Kun」の管理者たちが、Qアノン陰謀論の主要な提唱者らと恒常的につながってきたことを示す電子メールを見つけ出した。

新世代のハクティビストたちが、暴露を狙ってハッキングした素材を好んで公開する場所もある。情報公開請求運動で知られる米国人エマ・ベスト氏が主導する機密情報公開サイト「Distributed Denial of Secrets」だ。このサイトはウィキリークス的な装いだが、ウィキリークスと違って地政学的な偏見は弱めている。

そのベスト氏は今週、コットマン被告の行動を称賛。そうした情報暴露はハクティビストからだけでなく、内部関係者や、標的企業から「身代金」を得られなかったランサムウエア攻撃者によっても行われるだろうと指摘した。「コットマン被告のような人物が訴追されたのは、米政府がいかに恐怖を感じているか、いかに多くの企業が暴露を不安というよりも強い脅威と捉えているかの表れだ」と記した。

コットマン被告の中核的な容疑は、幾つもの企業のコンピューターに不正侵入し情報コードを公開したことや、標的企業のセキュリティー態勢のずさんさをメディアに暴露したことだ。ただ訴追ができたのは、ヴェルカダのシステムに入り込んだことを被告自身が世間に知らしめ、大手企業や医療施設、刑務所などの監視映像を警告のため投稿した後だった。

被告はロイターの取材に「米政府による訴追は表現の自由を侵害する試みであるばかりか、舞台に新しく現れた一連のハクティビストやリークティビストを威嚇し、黙らせることが主な狙いだ」と述べた。

<権威への挑戦>

コットマン被告は、法や企業上層部の権威を軽蔑してはばからない。「私はほかの多くの人と同じように、知的財産権の概念と、この概念がわれわれの日常生活を運営する政治体制への理解を制限するのに活用されるのを反対してきた」と言い切った。

被告の欧州の友人で、ツイッターのハンドルネームでは「donk_enby」と称する人物も、ハクティビスト復活に大きな役割を果たしている1人だ。彼女はパーラーのアプリを通じてQアノン信奉者が陰謀論を拡散し、これが新型コロナウイルス感染対策への抗議活動を促している状況に腹立ちを募らせた。アノニマスのコトル氏が昨年11月、パーラーからの暴露を投稿したのに続く形で、パーラーのアプリのiOSバージョンを解析。設計の不備に気が付き、あるプログラムを使えば芋づる式に同アプリへの投稿をアーカイブできることをつかんだ。

1月6日の議事堂襲撃事件の後、パーラーに投稿された襲撃の模様の動画約100万件について、彼女はそれぞれのウェブアドレスへのリンクを共有。自分のツイッターのフォロワーたちに向かって、議事堂内部で侵入者たちが自撮りするなどして投稿した動画を、当人たちが削除する前にダウンロードするよう呼び掛けた。彼女は動画とともに正確な位置情報や時間情報も取り込んでいたため、議会が後に事件の状況を把握したり、連邦捜査局(FBI)が侵入の容疑者たちをより多く特定したりするのにも役立った。さらには、投稿は仲間内にしか公開されない、と高をくくっていたパーラーのユーザーに警告を与えた形になり、新たな襲撃の抑止効果も発揮している。

このDonkを名乗る人物は、ミャンマーの2月1日のクーデターに抗議する人々からの助けを求める声にも応じ、幾つかの情報を開示。これによってグーグルは、クーデターを主導した国軍指導者のブログと電子メールアカウントの削除ができた。国軍との多くの契約企業などについてもネット上で特定した。これは海外からの制裁措置のきっかけにもなった。

(Joseph Menn記者)

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